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告白
葬儀終わりの喪服のまま、私は父の遺骨が収められた桐箱に頬擦りする。
墓には収めたくなかった。
物言わぬ姿であっても、彼の名残を離したくない……
お父さんも気付いていたでしょう。
私は貴方を父として見てはいなかった。
いつからなのかはわからない。
年頃になった頃から、私が愛したのは貴方だけでした。
けれど貴方は私に娘として振る舞うことを求めた。
だから何も言わなかった。
いいえ、言えなかったの。
私の天使、貴方は私の世界の全て。
それを失うくらいならいくらでも隠し通せるわ。
雷の夜に私の心が溢れてしまったのは、きっと神様が嫉妬したからね。
私がお父さんを独り占めしているから。
私も気付いていたわ。
お父さんが私を生涯ただ一人きり愛する女と定めていたことを。
それでも善良で有り続けたかった貴方のことを。
出会いの形が違ったら、私達は父娘ではなかったかも知れない。
私達に血の繋がりはないのだから。
私、もう一つだけお父さんに言わなかった事があるの。
私ももうすぐそちらに行くということ。
私の身体は突然変異で、元々丈夫ではなかったの。
もう余命幾らも残って無いんですって。
お父さんより少しだけでも長く生きられて良かった。
優しい貴方を悲しませなくて済むもの。
次に会ったらもう娘としてではなくて良いでしょう?
あなたの娘ではなく、一人の女として傍に居たいの。
私は貴方のための、貴方だけのために咲いた三色すみれなのだから。
了
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