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終わりの時
間もなく父は弱ってゆき、眠っている時間が増えた。
時折譫言を呟きながら眠るのを傍らで見て、私は近く来るであろう別れを感じ父の手を取る。
その日もそうして一日を終えることが出来ると、そう思っていた。
「雪……きれいになったね……あの花のようだ……」
もう私も30半ばを過ぎ、40の呼び声も近い。
でもきっと父の夢の中では、屋敷の温室で微笑む年若い私なのではないだろうか。
彼のその譫言は私が成人した頃に、2人で花を見ながら掛けられた言葉だから。
「ええ、私はお父さんのためだけの花。お父さんが好きだった三色すみれみたいでしょう」
白、紫、黄色……彼の愛したロイヤルブルーという三色すみれ。
花言葉は小さな幸せ……まるで私達父娘のようだ。
「……愛しているよ……」
「私もよ、お父さん」
ふふ、と小さく笑う。
彼はいつも愛していると言うと、間もなく目を覚ます。
けれどこの日は違った。
私が握っていた手に力がこもることはなく、手を離すとそのままはらりと落ちる。
ああ……とうとう終わりが来てしまったのだと理解した。
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