父と過ごした歳月

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彼は顔に負った酷い傷から自らを醜い化け物のように思っていたようだが、私にとって父は天使だ。 父は仮面の下を見られることを嫌ったが、私はそれを見るのが好きだった。 何故なら彼がそれを嫌々ではあっても見せてくれるのは娘である私にだけだったから。 「おとーさん、いたい?」 「痛くないよ。でもこれは……怖いだろう。だから隠してるんだ」 言葉を憶えた頃から何度も繰り返した会話。 この傷が彼にあったことを私は感謝している。 これがあったから父はこの屋敷で私と出会い、自らの素顔に怯えない私を娘として愛した。 そして何よりこの傷があったからこそ、彼は私の他に自らを愛してくれる存在を求めようとはしなかった。 私だけが彼の家族であり、彼にとって特別な存在であることが出来たのだ。 私の身体も心も、全ての成長はとても遅かった。 特殊な環境下で育った事に加え、この突然変異の身体は通常の人よりも弱いのではないかと医者は言う。 それでも16になる頃にはようやく月のものも訪れるようになり、心も娘らしく成長し始めた。 その頃には言葉や勉強もどうにか小学生程度まで追い付いたものの、まだ学校に通うには及ばず、家庭内での教育で高校卒業認定を取れる頃ようやく人並みになった。 つまりそこまで殆ど屋敷から出ることなく暮らしたのだ。
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