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女性の声は低めで、よく通る感じのトーンだった。
ぼくは再び、隣室のベランダを恐る恐る見た。
女性はコク、とビールを飲んで、息を吐いた。
「なんだかいいなと思って、真似してたんです。ベランダでビール」
缶ビールを軽く掲げ、乾杯のような仕種を、女性はした。
僕も何となく、缶を掲げた。
「月が綺麗ですね」
ぼくが言うと女性は、少し考えてから、「そうですね」と言って蒼い月を見上げた。
「あ、他意はありません」
「他意?他意ね」
女性はふっと笑うと、勢いをつけてグイ、と飲んだ。また息を吐く。
ぼくもつられて飲んだ。辺りは静かで、夜の闇と月の光に音が吸い込まれていくようだった。時折、電車が通り過ぎる音が聴こえた。
女性は少し顎をあげて、月を眺めていた。顎の線が美しいなとぼくは思った。
「イリアーヌ。お好きなんですか?」
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