イリアーヌ

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イリアーヌ

 不意に女性が月を見たまま言った。イリアーヌとは、イリアーヌ・イリアスというブラジルの女性ジャズ・ピアニストだ。休日の午後なんかに、部屋でよく聴いている。あちらの音が聴こえるという事は、こちらの音も聴こえていたというわけだった。 「あ、はい。よく御存知でしたね」  女性はこちらを見て笑った。「たまたまです。当たってて良かった」  それから缶ビールひとつを飲み終わる位までの間、ぼくと女性は話をした。ジャズについてや、飲んでいるビールの種類について。彼女の缶ビールはあまり見た事がないもので、訊くとロマン・ブロンシュというベルギー産ビールだった。コンビニやスーパーには無く、駅前にある大きな酒販店が入れているという事だった。 「今度見てみます」 「お店でも会ったら、面白いですね」
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