満月

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満月

「こんばんは」  女性が仕切りの向こうからひょいと顔を出した。今日は小さ目のピアスだった。ダイヤでもついているのか、そこだけ蒼く小さく、輝いていた。 「満月ですね」  女性が手にしているのは、今日はラーデベルガーというドイツのピルスナーだった。ビール全般は大丈夫だと、女性は言っていた。「苦いのも大丈夫です。ビールらしいし」  ぼくは持っている缶を掲げた。女性も缶を持ち上げ、ぼくたちはベランダの仕切り越しに乾杯した。 二人でぐっと缶ビールを飲んで、同じようにふう、と息を吐いた。自然と笑いが出た。  このままで居ようか、とも思った。この部屋の良い思い出として、心に収っておけばいい。離れてしまえば、どうしようもないのだ。ずっと記憶に留めておけば。 「今日ならいるかな、って思ったんです」  女性がぼくより先に口を開いた。 「ぼくもです」
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