14人が本棚に入れています
本棚に追加
満月
「こんばんは」
女性が仕切りの向こうからひょいと顔を出した。今日は小さ目のピアスだった。ダイヤでもついているのか、そこだけ蒼く小さく、輝いていた。
「満月ですね」
女性が手にしているのは、今日はラーデベルガーというドイツのピルスナーだった。ビール全般は大丈夫だと、女性は言っていた。「苦いのも大丈夫です。ビールらしいし」
ぼくは持っている缶を掲げた。女性も缶を持ち上げ、ぼくたちはベランダの仕切り越しに乾杯した。
二人でぐっと缶ビールを飲んで、同じようにふう、と息を吐いた。自然と笑いが出た。
このままで居ようか、とも思った。この部屋の良い思い出として、心に収っておけばいい。離れてしまえば、どうしようもないのだ。ずっと記憶に留めておけば。
「今日ならいるかな、って思ったんです」
女性がぼくより先に口を開いた。
「ぼくもです」
最初のコメントを投稿しよう!