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月の夜
この時期、ぼくのアパートの窓からはよく月が見える。高台に建つこのアパートは、築年数は旧いがこの眺望が売りで、誰かが越して行ってもすぐ部屋は埋まる人気だ。
空気が冴えて来る季節には、低い軌道を描く蒼い月を窓越しにずっと見ている事ができる。雲があってもいい。雲が無い日の月明かりは格別だ。
ぼくは帰宅すると、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ベランダだったり、窓辺に置いた小さな椅子で、月を肴に一杯やるのを習慣にしていた。それは一日のオンとオフを切り替える、自分にとって大切な儀式のようなものだった。
この季節にしては妙に暖かな夜になったその日、ぼくはベランダに出て手すりに身体を預け、ちょうど通りかかっている月を眺めて、プルタブを開けた。「プシュッ」と心の鍵を外すような音が聞こえて、細かな泡が立ち上ってくる。
「……お疲れ様です」
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