パーティー離散

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パーティー離散

 文明が発達した現代だが、それの恩恵を受けるのは都市部とその周辺だ。わずかに恩恵のおこぼれを受ける程度の地方は、昔ながらのギルドが残っており、オレはそこに所属している。  オレの住んでいる地方にはやたらとダンジョンがあり、冒険者や研究者もしくは山師や盗掘屋がよくやってくる。アンもそのひとりだった。 ※ ※ ※ ※ ※  ひと月ほど前、ギルドが経営しているダイナーで食事をしているとき、探検服姿の小柄なアンと濃グレースーツ姿の大女がやってきた。 「お食事中、失礼します。貴方がサーチ・ヴェルマークさんかしら」 「ひと違いだ」 無視して食べ続けようとしたら、大女に胸ぐらを掴まれ宙吊りにされた。 「もう一度お訊きします。ギルド所属ダンジョン専門の地図屋(マッパー)、身長163センチ、白色短髪、瞳はブラウン、歳は24のサーチ・ヴェルマークさんでよろしいですか」 息苦しくじたばたしているオレを、涼しい顔で再度訊ねるアンにそうだと答えると椅子におろしてくれた。 「紹介しますね。いま貴方に挨拶したのがディフィ、私のボディガードです。そして私がアン・ケイツー、貴方の依頼人ですわ」 「ことわる」  ふたたび宙吊りにされると、顔を近づけディフィが威嚇するように言う。 「はっ、話を聞いてから返事をしな」 宙吊りをとがめることなく、見上げながらアンはため息をつく。 「聞きしにまさる偏屈ね。ギルドマスターが依頼するだけ無駄だって言ったのよく分かったわ」 「わ、わかったんなら、さっさと帰れよ。オレは誰とも組まねぇんだ。おろせ、おろせってば」 「少なくとも話を聞いてから返事をしてくれるならね」 「わかったよ、聞いてやるからおろせって」 「はっ、聞いてやる?」 「聞かせてもらいますからおろしてください」 「素直でよろしい。ディフィ、おろしてあげて」  ディフィはオレをおろしてイスに座らせると背後に立ち、アンは前に座る。 「あらためまして、アン・ケイツーといいます。大陸中央都市(セントラル)の大学で教鞭をとってます、専攻は考古学よ。で、貴方に通じる話をしているディフィは女性専門護衛会社ディアナの社員(ガード)よ」  ディアナはきいたことがある。ここに来る女の護衛で来たこともあるが、知り合いは大抵は関わるもんじゃねぇという感想ばかりだ。オレも今日からそう言うだろう。 「とりあえず残りを食べるぞ」 「どうぞ。こちらも依頼内容を話させていただきますわ」 「食事中に話すのはマナー違反じゃないのか」 「貴方相手に?」 「──勝手にしろ」  ベリーソースのかかったハーブチキンソテーを一気に頬張った。 ※ ※ ※ ※ ※  そして結局依頼を引き受けてしまったので、こんな目にあってるわけだ。 「アン、とりあえず離してくれ。カンが打てない」 「いやよ、こんな真っ暗闇で離したらもう会えないかもしれないじゃない、絶対イヤ」 「じゃあせめて後ろにまわってくれ」  無理やりアンの身体を後ろに回し、カンを打つ。 「え?!」 「どうした」 「わ、私にも見える。何これ、急に辺りがみえるようになった」 安心したのか離れてくれたが、次の瞬間また抱きつく。 「は、離れたらまた暗闇だった。どういうこと? サーチに触れていると同じ能力が見えるということなの」 「知らねぇよ、触れながらカン打ったことないんでな」  後ろから頭を抱え込む姿勢から恐る恐る頭に触れたまま離れていき、右手だけ、左手だけ、頭以外といろいろ試された結果、どうやら身体に触れていれば同じ能力を共有できることがわかった。 「あとはサーチの異能力(ジーンギフト)に限界があるかどうかね。今まで最高どれだけできた」  学者肌とでもいうのだろうか、好奇心探究心のおかげで、さっきまで恐怖で震えてたのに普通に話している。  自分の異能力を測定することが無かったから、オレも多少は興味があり協力する気になっていた。 「カンを打ってからしばらくは見える。だんだんと日が落ちるみたいに暗くなっていき見えなくなる。それからまた打つという感じだ」 「連続で打って見え続けることはしないの」 「やってみたが、喉をやられて結構な時間使えなくなる」 「しばらくとか結構な時間とか、正確に計ってないの」 「独り(ソロ)だからな。オレがやれるかどうか分かればいい」  オレの言葉に半ば呆れながらも納得したアンは、本来の目的である仲間探しと脱出にでることにした。  手をつないだまま対面し装備の確認。アンはブロンドのロングヘアを編みこんで探検服の内側にしまってある。カーキ色の長袖長ズボンにブーツ。 「軽装だな。ヘルメットと荷物はどうした」 「ヘルメットは落ちた衝撃で無くしたわ。荷物はディフィが……」 「何が起きるか分からないから、自分の分は自分で持てと言ったろう」 「怒鳴らないでよ、反省してはいるわよ」  ヘルメットも普通は無くさない、いい加減な被り方をしてたんだろう。まったく。  自分の装備を確認する。ライト付きヘルメットにアンと同じく探検服の上下にブーツ。リュックサックには探検道具が一式入ってる。ライトは点かない故障しているようだ。  オレだけなら助かるが、アンと仲間がいる。心もとないな。  「他のメンバーがどうなったか知らないか」 「ボゥロは真っ先に落ちて行方不明、ジョンは後ろだったから分からない。ディフィは……私を助けるために突き飛ばした勢いでガレキに埋もれていったわ」 その光景を思い出したのかアンは涙をこぼした。
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