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「泣くのはあとだ。最悪の事態だが、希望を捨てるな。ガレキはふたりがかりでも動かせない大きさだ。ならばまず地上に戻り、最速でギルドに戻り救援チームを編成。ヒトは飲まず食わずでも3日は持つ、早ければ早いほど助かる率が上がるんだ、ディフィを助けたければ気をしっかり持て」
我ながららしくないことをしていると思う。こんな思いを二度としたくなかったから独りでいたのに。
※ ※ ※ ※ ※
──テーブルの上を片づけて広くなると、アンは持ってきた旅行バッグから古びた紙を取り出しひろげる。
「私が考古学を専攻したのは古い家系で色々な資料や古文書が家にあったからなの。なかでも興味をひいたのは地下迷宮──ダンジョンの資料。この古文書にはとあるダンジョンに異世界への扉を開ける秘宝があると記されているの」
「大学で教鞭をとってるんだろ。なんでそんなマユツバな話を本気にするんだ」
「話は最後まで聞いて。サーチの言うとおりこれだけなら信じなかったわ。でもね」
アンは他の資料を取り出すと、まるで講義をはじめるように語りだす。
「中央都市の東方は現代において荒野でしかないけど、遥かな古代には王国があったという伝説があるのは知っているかしら」
「いや──ちょっと待て、中央都市の東方ってここいら辺りのことか」
「その通り。サーチ、貴方は不思議に思ったことない? 貴方はギルドではCランクなのでしょ」
「オレのランクと伝説が何の関係があるんだよ」
「ギルドのランクは本来七段階だけど、Sランク、SSランクは現在空位なので実際はABCDEの五段階。サーチはダンジョン専門の地図屋というレアな職種なうえ独りだから成果の数は少ない。けど、ダンジョンマップの成果はほぼ100パーセント。本来ならAランクでもおかしくないけど前述の理由で割り引かれCランクなのよね」
「ギルマスのおしゃべりめ」
「大事なのはそこじゃなくて、ダンジョンてそこらじゅうにあるモノじゃないでしょ。なのに貴方がマッピングしたダンジョンはふた桁もあるのよ、しかもこの辺りだけで。おかしいと思わなかったの」
「ちょっと待て。ということは世界的にはそんなにダンジョンは無いのか」
「……貴方はダンジョン以外の世界も知るべきね」
後ろでディフィが笑いをこらえている気配を感じた。
※ ※ ※ ※ ※
あの時はディフィに不幸がおとずれろなんて思ったが、実際になるとそれが罪悪感となってかえってくる。このままじゃ目覚めが悪いから何としても助けてやらなくては。
「ディフィ、聴こえるか。生きていたなら返事をしろ」
小山となったガレキに向かって大声をかけるが返事はない。やはりこれだけの量では圧し潰されて死ん──
「ディフィ、返事をして」
アンが大声で呼びかける。すると下の方から返事がかえってきた。
「はっ、生きてるよー」
「ディフィ」
「はっ、言ったろ、あたしはラッキーガールだって。大きいガレキの隙間いいるみたいだ。荷物は無いみたいだけど身体は無事だよ」
自分が危機に見舞われているのに、アンを気遣うように話すので大した女だと呆れた。
「アン、カンを下に向けて打つ。落ちついてよく観察してくれ。とくにディフィの状態と荷物の状態をな」
「わかったわ」
手をつなぎカンを打つ。
「え、なに、ガレキが透けて見える。まるでコンピューターグラフィックの線画みたい」
「オレの能力は暗闇でも見えるだけでなく、透視みたいなこともできる。これがダンジョンの地図を安全かつ正確に調べられる理由だ」
「す、すごい。ディフィ、サーチの異能力でどんな状態かわかるわよ」
「感心してないでディフィを探すんだ。時間制限があるんだぞ」
慌てて足元にあるガレキの小山を透視するアンとオレ。ディフィを先に見つけたのはアンだった。
「居たわよ。寝そべっている……ディフィ、荷物もあるわ、右足から後ろに1メートルくらいのところよ」
アンに言われたところを見る。ディフィは床下に着いており、両端に人の背丈くらいの巨石がありさらに蓋のように巨石が乗っている。怪我もしていないようだ。
「冗談だろ。こんな御都合主義みたいなカタチになるなんてアリかよ」
「はっ、サーチ、あたしが無事なのに不満があるのかい」
「いーや、──たしかにあんたはラッキーウーマンだよ」
「ラッキーガールだ」
30近くのうえにバツイチのくせにガールと言い張るか。頼もしいくらい図々しいな。
「ディフィ、ライトは使えるか」
「はっ、ダメだ。光源が割れている、コイツはアンラッキーだったらしい」
「……とりあえず後ずさりして荷物を取ってくれ。そいつを抱いてるだけでも安心感があるはずだ」
さっきアンに3日は持つと言ったが、絶対ではない。一切の明かりが無い暗闇ではメンタルの方に影響が出る。できれば少なくとも明かりがある方が助かりやすい。
「サーチ、どうしよう」
ずっと下を見ていたアンがこちらを向くと、キャアっと驚く。
「どうしたアン──って、わぁっ」
オレも驚いた。アンの服が透けて全裸になっている。お互いがお互いをどう見えてるか分かった途端手を離しそうになるが、慌てて繋ぎなおしそっぽを向く。
「み、透視たの」
「、透視てない、透視てない。そっちこそ見たのかよ」
「み、透視てないわよ」
そんな会話をしながらさっきの裸を思い返していた。生まれて初めて見た、心臓の高鳴りが止まらない、女の裸ってキレイなんだな……。
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