パーティー離散

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「はっ、荷物取れたよ。サーチ、アン。あたしはこれからどうすればいいのー」  ディフィの言葉で、今はそれどころではないと気を取り直しあい、何事もなかったかのようにオレは返事をする。 「ディフィ、落ち着いてよーく聞いてくれ。ガレキ山は大体3メートルくらいの高さで、君は一番下にいる。オレたちだけでは助けられそうにない。だからギルドのある村まで戻って急いで救援チームを連れてくる、それまで耐えられるか」 「はっ、あたしを誰だと思ってんの。さっさと行ってきな。ただしアンに手をだすんじゃないよ」 「ああ分かってる、ていうか当然だろ」  方針は決まった。ダンジョンを脱出しディフィを助ける。さっそく行動し、さっそく挫折した。 ※ ※ ※ ※ ※ 「ダメだ、高さが足りない」  カンを打つという表現より異能力エコーズという方がカッコいいとアンが言うので、以降はそういうことにするが、エコーズで調べると、落とし穴は大体幅も高さも5メートルほどでとても届かない。  探検道具にはザイルもあるが、引っ掛けるところがなくては意味がない。石壁もご丁寧に磨かれていて手がかりになるところは何処にもない。落ちたら最後の落とし穴のようだ。  まごまごしているとディフィを助けられない。しかし手段が思いつかない、どうしたらいいと考えていると、上から声がかけられる。 「おーい、大丈夫かー」  男の声だ。なんとなく聞き覚えがあるが誰だか思い出せない。 「アン、聞き覚えがあるが誰だかわかるか」 「私も聞き覚えがあるんだけど、誰だかわからない」 思いきって返事をしてみる。 「大丈夫だー。あんたは誰だー」 「その声はサーチさんですねー。僕でーす、新人冒険者のジョンでーす」 「ジョン、ジョンか、無事だったのか」 「パーティの最後部にいましたから、まぬがれましたー」  上を仰ぎ見ると落とし穴の端から若い男が覗き込んできいた。顔はよく分からないが金色の短髪は覚えがある。なんたるラッキー。ディフィのラッキーは本物じゃないかと信じたくなる。 「ジョン、ディフィがガレキに埋まって救援がいる。急いでギルドに戻って呼んできてくれ。ギルマスに話せばわかるはずだ」 「わかりましたー。他の皆さんは大丈夫ですかー」 「オレとアンは無事だ。ボゥロはわからない、不明だ」 「わかりましたー。では急いで戻りまーす」 その言葉を残して足音が遠のいて行く。少しだけ安堵の空気がふたりの間に漂う。 「これでディフィをひとりきりにしなくてすんだな」 「あら意外。ディフィとは仲良くないと思ってたのに」 「別に仲が良い訳じゃない、今は仲間だからな。無事に脱出するまでは心配するよ」  アンと手を繋ぎながら、ディフィとはじめてちゃんと話した日を思い出していた。 ※ ※ ※ ※ ※  ──アン達と出会ってから1週間後、オレ達3人は通称ダンジョン荒野を彷徨っていた。  この荒野はどういうわけか草木がまったく生えない。緑化活動してもどうしても枯れてしまうので、何か呪われているのではないかと噂されている。 「だから、照りかえる陽射しのおかげで熱波にやられるのが殆どだ。当然水源もない。砂漠よりマシなのは地形が変わらないところかな」  案内(ガイド)をしながら日中はテントを張り日陰で休み、夕方から日没までと朝から昼前までの時間をつかって歩き目的地を目指す。  目印になるものが無いので測量が頼りだ。もちろんおカネを出せば静止衛星からの冒険者用GPSも使えるが、高価だしアンがまだ場所を知られたくないという理由で、使ってない。  ギルドのある村から出て3日目の野営だった。  アンを先に寝かせて、オレとディフィが火の番をしながら見張りをしているときに訊ねられた。 「なあ、サーチ。どうしてこんな仕事をしているんだ。まだ若いのに辺ぴなところで独り暮らしなんだろ」 「そういうあんたこそ何で護衛屋なんてやってるんだ」 「あたしは──まあ性に合ってるからかな」 「じゃあオレもだ」  会話が途切れ、お互いしばらく火を見つめたあと、今度はオレから訊ねる。 「アンとはどうやって知り合ったんだ」 「前にさ、別の仕事の護衛を頼まれてここに来たんだ。ダンジョン観光だったんだけど、治安が悪いと依頼主がきいてね。念のために雇われたのさ」 「それで」 「いちおう目的地のレクチャーを受けておこうと思って、大学の一般講義を申し込んだら講師がアンだったんだ」 「そこで知り合ったのか」 「ああ。驚いたよ、まだ16なのに堂々と講義をしている姿にさ」 「じゅ、16だと。どういうことだ」 「天才なんだよ。アンはまだ17歳さ。語学と古文への閃きが特に優れていて飛び級制度(ステップ)と実家の後ろ盾で教授にまでなっていた。  ──離婚したばかりだったんだその頃は。女ひとりで生きていくのが心細かった時に堂々と講義をしているアンを好きになった。だからあの娘が依頼してきたときはラッキーだと思ったよ」 「つまりアンは歳下だけど憧れなのか」 「それだけじゃない、仕事から離れると世間知らずのお嬢様でね。危なっかしくて護ってあげたい気持ちにもなる。アンには言わないでね、照れくさいから」  何も無い荒野の夜は淋しさを感じるらしい。いつも強気なディフィの繊細な部分をみせられ、人付き合いに不慣れなオレは返事に戸惑ってしまった。
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