パーティー離散

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 アンが複数の古文書を解読し、ダンジョンのありそうなところを推理し、現在の地図に照らし合わせて大体の見当をつける。そして4日目の朝方そこまで来た。 「なんにも無いね。目印になるモノの無い一面荒野だ。どうなってるんだ」 ディフィの質問にアンが答える。 「遥かな昔、それこそ神話の時代のお伽話のような伝説。ここにあった小国は女王が治めていて、周囲は緑あふれるとても豊かだったそうよ。そしてなぜか地下施設を造るのが得意だった。ところがある日のこと山の向こうから大勢の敵に攻められたの。とても敵わないとみた女王は、国民を西へ逃し、たったひとりで大軍をくい止めたという。  この地に草木が生えないのは、殺された大勢の敵軍の怨念だとか女王の執念だとか言われているわ」 「ここ全部が呪われているの」  見渡すかぎり土と石と岩しかない荒地だ。何日も歩かなければ緑が見えないほどの面積。  本当に呪われているのなら、恐ろしいほどの執念が染みついているのだろうかとディフィは怖がる。 「まあそんなに呪われているのなら、私達はもう死んでるはずだけどね」 あっけらかんという無邪気に微笑むアンに、オレとディフィは顔を見合わせて呆れた。 「さて、サーチ。ここからが貴方の出番よ。地下迷宮地図屋(ダンジョンマッパー)としては、どう探すのかしら」 「見世物じゃないけど、まあ見てな」  オレは喉の奥をカンと鳴らし、地面を凝視する。 「此処らには無いな。もう少し進もう」 「何やったのよ、全然わからないわ」 「あー、説明がめんどくさい。とにかく此処らには無いから日がのぼり切る前に移動するぞ」 「ちょっと待ってよ、いい加減なことしてない? 何がどうなったか教えてよ」 「だから、此処らには無いんだよ。信じられないならここに居ろよ、独りの方が楽なんだよオレは」 独りでさっさと行こうとするとディフィに肩を掴まれる。 「はっ、待ちなよ。サーチ、あんたが人付き合いが苦手だということは一緒に行動して少しは理解したさ。でも今は団体──というか3人で行動しているんだ。解るように説明しなよ」 この時のオレは言いたくなかった、なぜなら異能力者(ジーン・ホルダー)と知られたくなかったからだ。  さらには人付き合いが苦手な性格が重なり、ムキになって言いたくないとディフィに返してしまったせいで、殴り合いになった。──あっという間に負けたけどな。 ※ ※ ※ ※ ※ 「──思い出したら腹が立ってきたな」 「なにを思い出したの」 「ディフィに負けたことさ」  いつまでもガレキの上に乗っていてはディフィに悪いと思い、落とし穴の一番下まで降りてアンと手繋ぎのまま座って話してる。 「ああ、初めての探検の時ね。結局私たちはテントに残り、サーチだけで探しに行ったんだっけ」 「アンの仲裁のお陰でね。あのあと何も見つけられずに帰ったら、ディフィに何か言われそうで意地で探し当てた」 「おかけでディフィは謝ってくれたし、サーチも許してくれたから助かったわ」  パーティリーダーであるアンは、メンバーの調和のためにそれなりに気遣っている。  いくら天才で賢いとはいえ17歳の少女なのだ。歳上のオレが我儘でどうする、情けない。 「はっ、なんかふたりでいい雰囲気になってないー。さっきから聞こえているんですけどー」 ガレキの奥からディフィが面白くなさそうに割って入る。 「そんなつもりはないぞー」 「そ、そうよディフィ、暗闇の中だから気が紛れるように話してただけよ」 「はっ、だったらあたしも仲間に入れてよー」 「そ、そうよね。えっと──」 アンか何を話そうか困っていたので、オレの抱えている疑問を話題にした。 「ディフィ、落ちる前のこと覚えているか」 「ああ。あんたの異能力のおかげで問題無くここまで来て、おそらく目当てのお宝がある通路まで来たんだ。それから……そうだボゥロのヤツが焦って先走ったんだ。だからトラップに引っかかったんだよ」 「ボゥロが?! そうなのかアン」 「ええ。トラップが分かるサーチが先頭、右斜め後ろに私、その左斜め後ろにボゥロ」 「思い出した。千鳥形体で進んでたんだ。ディフィはアンの後ろだったな」 「ああ。そして最後尾に……えっと誰だっけ、もうひとりいたよね」 「ジョンよ。新人冒険者で今回は経験を積むため荷物持ちとして仲間になった人」 「──ああ、居たね。とにかくボゥロのヤツさ。あいつが焦ってこうなったのさ。はっ、なにがベテランの盗掘屋だよ、口先だけの大ボラ吹きめ、助かったら絶対打ちのめしてやる、そのためにもこんなところでくたばってたまるかよ」  これだけ元気ならしばらく大丈夫だな。とはいえだ──。 「どうしたのサーチ」 「打ちのめすには、まずはボゥロが生きていることが先決だからな。探しに行きたいがここを離れる訳にはいかない。どうしたものかと考えてる」 「ああ──心配してくれるんだ」 「仲間だからな」 しばらくアンは考えると、探しに行ってきてと言った。 「いいのか。また暗闇に戻るんだぞ」 「ディフィと話してるから大丈夫よ。ね、ディフィ、女のおしゃべりって暗闇でも平気よね」 「ああ。サーチが戻ってくるまで話し続ける自信があるぜ」 握っている手が震えているがわかる。離すのをためらっている自分がいる。だが……。 「すぐに戻ってくるからな」 そう言うと、気をつけてねと言いながらアンの方から手を離した。
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