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人が隠れるくらい大きなガレキの向こうを覗いてみると、左足が変な方向に向いているボゥロが座り込んでいた。
「足をやったのか」
「サーチか。探しに来てくれるならお前だと思ってたぜ。ちっとばかしドジったぜ」
頭の真ん中は禿げ上がり、顔は赤ら顔で目尻が下がり、身体は中年太りで御座候というボゥロを見てやれやれと思う。
──はじめて会ったときアンのがっかりした顔は忘れられないな。なにせロマンスグレーに会えると思ったら、こんなおっさんだったもんなぁ──
「ボゥロ、手を掴むからな」
そうことわってから手を掴み、異能力エコーズと言ってカンを打つ。
「へ?! な、なんだこれ、見えるようになったぞ」
「さっき偶然発見したんだ。オレに触っていると同じ状態になるらしい」
「へぇ~、すげぇなぁ。シーカーにはそんなこと出来なかったぜ」
シーカー。親父のことだ。俺は知らなかったが、若い頃にギルマスと3人で組んでクエストを何度かしていたらしい。
「うわっ、本当に足が折れてやがる。どうりで痛かったわけだ、うわぁ、見て確認したらよけい痛くなってきたぁ、サーチ、手当してくれよぉ。あ、アンは無事か、どうせなら女の子がいい。女なら誰でもいいってわけじゃないぞ、ディフィなんかに任せたら両足折られてしまうからな」
「……それだけ喋られるんなら大丈夫だろ。添え木をしてやるからちょっと待ってろ、手を離すから慌てるなよ」
「え?! って、なんだなんだまた真っ暗になったぞ。どうなってんだ」
「直接触ってないとダメなんだってさ。添え木が終わったら肩を貸すからまた見えるようになるよ」
※ ※ ※ ※ ※
手当を終え、ボゥロに肩を貸して立ち上がるとアン達のところに歩きだす。
「で、痛みをこらえるために黙っていたけど、そろそろ話してもいいか」
「アンタでも遠慮するんだな」
「遠慮が俺のポリシーなんだぜ、こんな気をつかう男なんてそうそういないからな」
「は、そんなヤツがトラップに引っかかるかよ」
「トラップ?」
くだけていたボゥロの口調がかたくなった。
しまった、と思ったが、ここで手を離せば自分も助からないくらいは解っているだろうと踏んで、思いきってツッコんでみた。
「トラップに引っかかって落ちる前にボゥロの手が後ろから出てきたのを覚えている。アンも走り出した姿を見てるしディフィもだ。だからボゥロがお宝を見つけて慌てて駆け出したからこうなったんだろ」
「違う違う、俺じゃない。いや俺のせいじゃない。たしかにトラップに引っかかったのは俺だが、押されたんだよ」
「押された? どういう意味だよ」
「言葉通りさ。後ろから手──じゃないな、何かモノで押されてつんのめったんだよ。だからサーチが避けるように言ったところを踏んでしまったのさ」
──本当か?
「ボゥロの後ろってジョンしかいないぞ」
「ジョンって誰だっけ」
「荷物持ちで新人冒険者の若い男だよ」
「ああいたな。じゃあジョンって奴かディフィのせいだな」
「なんでディフィも入るんだよ」
「あらゆる可能性があるんだ、思い込みで捨てるんじゃない。ディフィも位置的に俺を押せたろ」
「……ボゥロが嘘をついている可能性もあるんだぜ」
「それでいい、当然俺の言うことも疑えよ。ダンジョン攻略中は常に冷静で事実に背を向けるな」
かたい口調から厳しい口調に変わり、真剣な顔つきで言う。まるで親父みたいなことを言うな……。
「で、現状はどうなってるんだ」
「アンとは合流した。ジョンは落ちなかったので救援を呼ぶように指示。問題はディフィで無事だけどガレキに埋まって動けないんだ」
「ジョンはどこにいたんだ」
「上だよ、もといたところ」
「そうじゃなくて、落ちる前の後ろ側か越えたところかを訊いている」
「そりゃ後ろ側だったさ、当然だろ」
「ふうん」
何か気になることでもあるのかと訊こうとしたら、アンの笑い声が聴こえてきた。
「この真っ暗闇で……元気みたいだな」
ボゥロが呆れたように言う。
「ボゥロを探しに行くとき、ディフィと話してるから大丈夫って言ってたけど、女の子って本当に話すの好きなんだな」
「違う違う、話すのが好きなんじゃない、喋るのが好きなんだ。会話じゃなくて言いたいことを言うのが好きなんだよ」
「どう違うんだ」
「お前も女を知れば解るよ。おおぉい、無事かぁ」
ボゥロが声をかけると、アンはビックリして身を固める。
「だ、誰なの」
「俺だよ、ボゥロだ。サーチに助けてもらった」
「ボゥロ、生きてたの?!」
「そこは無事だったのって言ってくれよ、まったくサーチといい何なんだよ」
その会話が聴こえたのか、ガレキの中からディフィがさけぶように言う。
「はっ、ボゥロ、生きてたか、よかったよ」
「ほらみろ、さすがはディフィだ、ちゃんと心配してくれる」
「はっ、あったりまえだ、ひとをこんな目にあわせやがって。張り倒してやらないと気がすまないんだよ」
ディフィの言葉にがっくりするボゥロに、オレはやさしく声をかけた。
「よかったなボゥロ、帰りを待ってくれてる人がいて──再会が楽しみだな」
まだまだ危機におちいったままだが、全員の無事にオレはとりあえずホッとした。
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