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ガレキ撤去は、オレひとりでやるしかなかった。
アンは非力だし、ボゥロは骨折だからな。
しばらくアンには暗闇の中に戻ってもらい、骨折したボゥロはオレに触れながら指示、オレひとりで撤去作業をすると、大人ひとりが通れるくらいのトンネルが出てきた。
「さて、オレの荷物からザイルを出すから、アンとボゥロは端を持って待っていてくれ。中に入って片方をディフィに渡す。
ディフィは荷物ごと引っばり出すからザイルを荷物に通してくれよ」
そこまで指示したあと、ガレキトンネルに入る。2メートルくらい進むとディフィと会えた。声をかけて触れると異能力エコーズと言ってカンを打つ。
「うわぉ、見えるってこんなにも有り難いなんて知らなかったよ。はっ、サーチ、アンは無事かい」
「助けに来てありがとうだろうが。第一声がそれかよ」
「はは、そうだった。助けにくれてありがとう」
「遅いよ」
見えるんならと、ディフィの後ろにある荷物の肩紐にザイルを通して引っばりだせるようにする。
そこまでしてからオレはほふく後進、ディフィはほふく前進でガレキを脱出。荷物も回収。全員がオレに触って顔を確認。ようやく本当の意味で全員が揃った。
もちろんディフィはボゥロを張り倒そうとしたが、脱出できたのはボゥロのおかげだとオレが庇ったので、チャラにしてもらい一件落着。
回収した荷物のおかげで、ライトがふたつ修理できた。
それらはボゥロとディフィに使ってもらい、アンは常にディフィと一緒にいてもらう。やれやれ、ようやくスキンシップから解放されたぜ。
「で、これからどうする」
そう言いながら、ボゥロは手に入れたライトを使って落とし穴全体を見回す。
「背が高くて無傷のディフィがいるんだ。ガレキ登頂部でディフィを踏み台にしてザイルを持ったオレをあげてもらおう。それから順次あがって脱出でどうだ」
「まあ妥当だな」
「ディフィ、出たばっかりで悪いが働いてもらうぞ」
「はっ、動けるだけマシだから、なんでもやるよ」
登頂部まで来ると、女性を踏み台にするのがやはり心苦しいのでオレが下になってみたが、大柄のディフィを支えるだけの体力がなかった。しかたなくオレが上がることになった。
「どうだいサーチ」
「なんとか手が届いた、せーのっ」
ロッククライミングのように手の力だけで上がろうとしたが、手に衝撃を受け落ちる羽目になる。
「失敗か。もう一度やるよ」
「違うんだディフィ、明らかに誰かに手を蹴飛ばされた。誰か上にいる」
「なんだって」
オレの言葉にディフィとボゥロが上を照らすが、誰も見当たらない。
「異能力エコーズ」
カンを打つと、上の床が透けてそこに人がいるのが映った。
「隠れても無駄だ、そこにいるのはわかっているぞ。ジョン」
ハッタリだと思ってるのか返事がない。
「ジョン、今右に動いたな。止まった。後ろに2歩下がった、止まった。どうだ、ハッタリじゃないだろう。どうしてそこにいる、救助隊を呼びに行ったんじゃないのか」
呼びかけてみるが変わらず返事がない。いったいどういうつもりだ。って、痛い。足元に小石が転がる。
やりとりを聞いていたボゥロが、下から小石を投げたようで、そっちを見ると口もとに人差し指を立て手まねきをしている。どうやら黙って降りてこいと言ってるらしい。
ディフィの耳もとで囁き伝えると、静かにオレ達はガレキを下り合流する。
「どうしたボゥロ」
「ちょっと代わってくれ。それと荷物を持って移動する準備をしておいてくれ」
ボゥロの口調からアン達も黙って言うことをきき、荷物を背負いはじめる。そしてボゥロは上に対って大声で話しかけた。
「ジョン、聴こえるか、ボゥロだ。お前に背中を押されてトラップにかかったマヌケなボゥロだ。
ダンジョン最深部の奥にあった宝箱、独り占めにしようと俺達をまとめて罠にかけたつもりだろうが、計算違いがあったんだろう。
それはトラップの穴が思ったより大きかったんで宝箱のある方に渡れなかったことだ。新人が極限状態で暴走行為をするなんて何回か経験しているから分かるんだよ、だが残念だったな。その宝箱はおそらくフェイク、偽物だ」
え!? っと、オレ達は驚く。
「ウソだ」
やっとジョンのヤツが返事をした。
「やっと返事をしたな。ウソだと思うなら確かめてみな、もっとも渡れたらの話だがな。それともうひとつの計算違いだが、俺達は落とし穴にいるんじゃない、さらに下の通路にいるんだよ」
ふたたびオレ達は驚く。
「トラップの落とし穴は縦横3メートルほどの床が抜け落ちた。だがそれにしちゃガレキの山が大き過ぎた。おかしいと思って調べてみたら、すでに山があったのが分かった。その山はな、階段だったんだよ。わかるか、真の最深部は俺達がいる落とし穴──じゃなくて通路だったんだよ。
理由までは分からないが、ここが隠されていた最深部なのは間違いない。俺達は先に行く、お前はそこで立ち尽くしてな」
それだけ言うとボゥロは肩をかしてくれとオレを呼ぶ。起こしながら、今の話は本当かと小声で訊く。
「ああ。たぶんな」
たぶんかよ。
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