再会

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再会

「もうすぐ団地に着きますよ。 この坂を上り切ったところが 入り口なんです。 早く彼女の家に 案内したいんだが、 全くの住宅地だから 目印になる 大きな建物がなくてね。 住宅地図がないと 住所だけでは たどり着けないんですよ。 だから、 申し訳ないが 先に自宅に 寄らせてもらいますね。」 「もちろんです。 田中さんのご家族も 心配なさっていることでしょう。 一刻も早く 安心させてあげてください。」 「ありがとう。」 団地の中も もちろん 街灯がすべて消えている。 市街地に比べ、 山に近い郊外の住宅地は 走る車もほとんどなく、 いっそう闇が深く思えた。 それでも慣れた道、 迷うことなく 自宅へとたどり着いた。 駐車場に入ると、 田中明は 逸る気持ちを抑え、 足元を気にしながら 玄関へと急ぐ。 「ただいま!お母さん、 由紀、帰ったよ!」 「お父さん! 大丈夫だったのね…。 津波に流されたかと… よかった…」 妻と由紀が玄関に走り出てきた。 涙で後は言葉にならない。 「心配かけたね…。」 「どうやって… 帰ってきたの…? お父さん。 車は、ないんでしょう? とにかく、中へ…まだ、 全部は片付いてないけど…、 歩く場所は確保したから…」 「うん、 車は流されてしまったよ。 だから、 水が引くのを待って 多賀城から歩いてきたんだが、 途中で疲れてしまってね、 暗くはなってくるし… でも、 途中、親切な方たちに 拾ってもらって、 お陰で日付が変わらないうちに 帰ってこれたよ。 そうでなきゃ 明日の昼ごろか、 途中で動けなくなっていたか… お前達からも 御礼を言ってくれ。 そうだ、由紀、 地図を取ってくれないか? お知り合いが この団地に住んでるらしいんだ。 案内しないと。 懐中電灯も頼むよ。」 由紀から 懐中電灯と地図を受け取ると、 その明かりを頼りに 駐車場へと戻る。 「お待たせしました。 チソンさん、 お訪ねの御宅の番地は…」 地図を見ながら明が尋ねても… 返事がない。 訝しんで顔を上げると、 チソンは明ではなく 後ろに視線を向けていた。 「チソンさん…?なの? どうして…?」 「由紀…さん? たなかさんは… 君の… お父さんだったんだ…」 「チソンさんの恋人って…」 三人の後ろで、 ソンジュたちは どうしようもなく 呆然としている。 「どうぞ、中にお入りになって… ゆっくりしていただく場所も ございませんし、 灯油を節約しているので 家の中も寒いんですけど… 由紀、 皆さんをご案内して。 お母さんは お父さんを休ませないと… 二階に上がるから。 あなたがチソンさんね。 危険を顧みずに 来てくださって、 ありがとう。 主人が 大変お世話になりました。 本当に助かりました。」 「ご主人、 どうぞ お休みになってください。 我らにお気遣いなく。 奥さんも、 お嬢さんもお構いなく。 私たちは 何かお役に立てばと 来たのですから。 しかし…、 チソン君が気になるって言って 声をかけた方が、 まさか… ま、話は後にいたしましょう。 ほら、 ソンジュとソジュン君、 持ってきた荷物を 降ろして。」 ソンジュの叔父が指図すると ようやく皆が 呪縛から解けたように 動き始めた。
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