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いつも通り
噴水公園は桜が満開に咲き乱れていた。
公園の敷地に入ると、何やら人が密集している。多分、彼だ。
近づいてみると、やはり彼が囲まれていた。それはもう昔からのことで、私を選んでくれた意味が分からなかった。
「亜由」
彼が呼ぶと、周りの人々はいっせいにこちらへ視線を送る。
「え、彼女さん⁉ めっちゃ可愛いじゃん!!」
「お似合い~」
軽く会釈をし、彼は私の方へ近寄る。
「まずは、学校の方に行こ」
そう促し、私達は歩き始めた。
今日のデートプランは、街巡りとディナー。時刻は11時過ぎ、かつて高校へ通っていたこの街を巡り、夜は一緒にディナーをする。
最後のデートに相応しいプランだった。
「あ、見て。あのレモネード屋」
彼が指さしたのは、帰り途中によく買っていたレモネード屋。
友達とよく一緒に飲んで、歩いてたっけ。
「亜由、好きなんでしょ? 買う?」
「うん、買う。友都も飲む?」
「そうする」
見た目は黒髪のサラストで、大人っぽいのに、照れると顔を赤く染めたり、無邪気に笑う姿に魅かれてばかりの私だった。
「懐かし」
春物のコートを身にまとう彼は、季節上で一番かっこ良い。ピアスもして、綺麗な顔で、隣にいるだけで楽しい。それが彼だった――
「イヤリングしたんだ」
そっと、耳元のイヤリングを手に取る。
「ちょ、友都……」
「――似合ってる」
「――――友都ってば、バカ」
突然、甘い言葉を囁くなんて昔じゃ考えられなかったけど、今ではそれも普通に言えるようになった。
好きな人も1人もいなかったのに。
「友都もかっこ良いよ」
「っ⁉」
でもまだ、そう言って顔が赤くなるのは変わらない。
ずっと、隣に居て欲しい。
ただ、それだけだから――
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