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口下手
新発売となる小説を買いに行った時だ。いつもと違う時間に行ったからか、会計カウンターには彼女がいた。
「あ、アオ君じゃない!え、こんな分厚い小説読むの?すごいね」
彼女は僕のことをアオ君と呼ぶ。【袴田 蒼人】だから、そういうあだ名になりやすい。
「ブックカバーつけとくね?」
「…ありがとうございます」
僕がそう一言言っただけで、彼女の手が止まるものだから、自分は何か変なことを言ってしまったのかと目を合わせられないでいた。
数秒後に、彼女はそんな時間がなかったみたいにブックカバーをつけて会計してくれた。
「またね、アオ君」
そう彼女は声をかけてくれたけど、僕は何も返事しないでそそくさと帰った。
どうも昔から女の人が苦手で、口下手で失礼なことをしていると反省すれど治らない。
こんな調子だから、バレンタインでチョコを貰えても彼女の一人もできやしないんだ。
彼女もきっと、僕を理解したら見限るだろう。そう考えていた。
その後しばらくは喫茶店に寄りつく暇もなく時間が過ぎ、問題なく単位を取得して、就職活動も計画的に頑張り続けた結果、3社から内定を貰うことができた。卒論も書く目処が立っていたから、卒業までの間は心配事なく過ごせると胸を撫で下ろした。
久しぶりに喫茶店に顔をだすと、いつものテーブルには彼女がいた。彼女はテーブルに突っ伏して寝ていて、僕はどうしていいかわからずに突っ立っていた。
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