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胸がつかえる
踏みしめる土は雨のせいで少し濡れていて、確かめるようにして歩かないと危なかった。木の根の出っ張りに足を引っかけて転びそうにもなった。
それでも山登りというのは、頂上に着いて達成感を味わうのが醍醐味だから、黙々と歩みを進めていく。
「この先に休憩所か」
K山にはいくつか休憩所がある。彼女と登るには、その休憩所の存在が重要だ。彼女は僕みたく体力があるわけではないし、僕は背負っている物が重い。
休憩所は木材で組まれた屋根付きの小さなものだった。屋根の真下にテーブルがあって、それをとり囲うようにして木のベンチがある。
吹きさらしで屋根や柱には苔が生えている。時間をかけて自然と同化していくようで、なんだか寂しげだ。
「少し食べて行こうか」
ベンチに腰掛けて、背負っていたリュックからアルミに包んだおにぎりと水筒を取り出す。山では碌に手も洗えない場合があるから、ウェットティッシュも忘れない。
今日のおにぎりの具は、梅とおかかと自家製ツナマヨ。僕が握ったものだから、綺麗な三角とはいかなかったし、彼女には少し食べにくいくらいには大きいサイズ。両手を合わせていざ、いただきます。
「おいしい」
食べながら、ゆっくりと周囲を見渡す。風が通り過ぎるたびに、木々が揺れて心地よい音が聞こえる。
あの木々はなんだろう。来る途中にも感じたが、スギの木に紛れるような形で別の種類の木がある。木に詳しい訳でもないから、きっとヒノキやモミの木あたりかと、浅い考えにしか至らない。
胸がつかえてしまったのか、彼女はおいしいとは言えない状態だった。
僕のおにぎりがおいしいからって、よくするおっちょこちょいだ。対応も手慣れたものだよ。
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