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始まりの事件
深夜の歩行者用トンネルにて、中学生ほどの年齢の少年たちが騒ぎながら歩いていた。五、六人ほどで広がって歩いていたので、もし向かいから人が来れば迷惑の一言であった。
「んでさぁ! そいつムカつくから中で出してやったんだよ! 」
「ギャハハハ! それヤバいんじゃね!? 」
なんともお下劣な会話をしながら歩いていると、案の定向かいから人が一人歩いてきた。フードを深く被っていることから、少年たちは気の弱い人物だと考えて、少しいたずらを考えた。
その内容とは、無邪気ゆえに残酷であった。
「おいおっさん! 邪魔だよ!! 」
一人の少年は謎の人物に向かって、倒してやろうとぶつかった。しかし、それだけでは倒れなかった。
「聞いてんのかおっさん! 」
いつの間にか後ろに回り込んだ少年一人は、その人物の背中に強く蹴りを食らわせた。靴底の跡が残ってしまうほど強く、さすがにそろそろよろけてきた。
「ほーらッ!! 」
後ろから蹴られたことによって前傾姿勢で前方に勢いで行ってしまった。すると、丁度前にいた少年が、その人物の顔を顎から殴った。
蹴られたり殴られたりで前後に揺られてしまったその人物。さすがによろけて尻餅をついてしまった。
「オラァ! 気持ちいいか!? 」
まるでトドメをさすように、その人物の顔面に靴底をつけて、地面の固いコンクリートとサンドさせた。並の人間であれば脳震盪はくだらないだろう。下手をすれば頭蓋骨だって砕けかねない。
「あー楽しかった。一応もっとやっとく? 」
「いや、いいだろ。じゅーぶん楽しかったわ」
そういってその場から立ち去ろうとする少年たち。しかし、そこに取り残された人物の目は、しっかりと少年たちを見据えていた。
-翌日-
「こりゃ、ひでぇな」
ブルーシートに覆われた殺人現場に、一人の刑事が入ってきた。例の歩行者用トンネルである。
「おそらく昨晩、23時頃に殺されたかと」
鑑識官の報告を耳に通しながら、刑事はその遺体たちに向かって手を合わせた。
「かわいそうに。まだ中学生ぐらいだな」
刑事が同情の目で見据える先には、昨晩謎の人物を痛め付けていた少年たちの遺体があった。上半身と下半身が切り離されているものもあれば、切断された誰かの腕を口に無理やり詰め込まれているという、なんとも酷い殺され方をしているものもいた。
「何か犯人の手がかりは? 」
「それが、現場からこれが......」
鑑識官が持ってきたのは、小さなジップロックに入った星形の葉っぱであった。
「今流行りの『魔薬草』か......」
「はい、この量だとだいたい五十万円か、それ以上ですね」
魔薬草。この世界の裏ルートで出回っている薬物である。服用することで脳を刺激し、快楽物質を多く生み出す機構を作る。また、新たな脳内麻薬を開発し、それを作る部位を脳に形成する。それゆえ中毒性も高く、高額で取引される。
「魔薬草ってことは」
あいつの協力がいるな
-留置場-
刑事はガラの悪い人物たちが見ている中で、ずんずんと廊下を進んでいった。
そして、豚箱の最奥にやつはいた。
しかしやつを目に写す前に、同じ檻に入っていた男たちが、鉄格子から手と顔を出して刑事に訴えた。
「おい刑事さん! あいつと別の檻にさせてくれ! 」
「あんたらがあいつを怒らせてるせいで俺らが憂さ晴らしに殴られてんだよ! 」
その男たちは、頬に青アザが出来ていたり、前歯が綺麗に抜けていたりしていた。いかにも殴られていますという感じだ。
「しょうがないだろ。あいつは魔薬草を所持している疑いがかかってるんだ。勾留しとかねぇと危険だろ」
そう刑事が言うと、それがヤツの耳に届いていたのか、ヤツは突然叫びだした。
「だから、もってねぇっていってんだろうがぁ!! 」
「ひいぃ! 怒らせんじゃねぇよ!! 」
男たちは、鉄格子の向こう側の刑事に近づいているヤツを、避けるようにして両脇にそれた。
「もってねぇのにもってるだろとかいいやがって!! おれがホンキだしたらなぁ、おまえらなんてボッコボコだかんな!! (ノ`Д´)ノ」
両足両手をあっちこっちに伸ばしながらピョンピョン跳ねて怒るヤツの名はファオ。数日前に魔薬草所持の疑いで連行され、今まで留置場にいた人物である。
「じゃあ、一時的に自由の身にしてやろう」
「え? ホントか!? 」
鉄格子を両手で掴み、目をキラキラさせながら刑事を見るファオ。しかし、刑事はそんなファオの顔の前に人差し指を出してこういった。
「ただし、監視付きだ」
-数分後-
留置場からは出ることができた。しかし、余計な荷物が一つ増えてしまった。
「こいつは、今日からお前の監視を担当するホサカだ。女だからって甘く見るなよ? ベテランだからな」
警察署の入り口で紹介されたのは、髪がほのかに赤色を纏っている女性刑事だった。名をホサカというらしい。
「魔薬草所持犯の監視なんて、最悪だわ! 」
「おれだっておまえにかんしされんのサイアクだよ! 」
そんな二人のやり取りをみて、自身の子供たちの喧嘩を思い出した刑事、サメジマは言った。
「なんだ、仲良くできそうじゃないか」
するとそれが癪にさわったのか、二人はサメジマに向かって言い放った。
「「できるか!! 」」
まるで姉弟のように喧嘩をするファオとホサカ。しかし、そんな二人は今から、とんでもなく大きな事件に巻き込まれていくことになる。
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