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捜索
大都会。多くの車が行き来する広い道路をわき目に、ファオとホサカは今回の事件の犯人捜しをしていた。
しかしファオは、自由がきかないように腰に縄をくくりつけられていた。
「なんでこんなのつけるひつようあんだよ」
拗ねたような口調でホサカの方を振り返るファオ。一方、縄の端をリードのように持っているホサカは、自分が優位に立っていることで優越感に浸った表情をしていた。
「あんたが逃げないようにするためよ。まあ、こっちからの景色も悪くないから、堪能させてもらうわ」
「チッ、クソおんながぁ......」
小さな喧嘩をしている内に、二人は鼻でいい香りをキャッチしていた。数メートル先でクレープの路上販売をしていた。
「いいにおいするなぁ......」
「そうねぇ......」
匂いにつられて店先まで来てしまった一行。二人仲良くヨダレを垂らしながら、次々と焼かれるクレープを見ている。
「......そんなに見るなら、買いな? 」
クレープを直視し続ける謎の人物たちに、店主はクレープを勧めた。
「おいホサカ、おまえかねもってるのか? 」
「えっと......三百二十円しかない」
一番安いバナナクレープ一つでも三百五十円である。ギリギリ買えない額だ。あまりの悲しさに、二人揃って涙目になっていく。
「さ、三十円ぐらいオマケするよ? 」
そんなに金に困っているのかと店主は同情し、見ず知らずの怪しい人物たちに奢ることを宣言した。
それを聞いた瞬間二人の表情は太陽のように明るくなり、店主に感謝の念を送った。
「はい、お待ちどうさま......」
店主から貰ったそのクレープは、バナナを主軸としてクリームとチョコソースがかかっている、ごく平凡なクレープであった。
「......ひとつしかないな」
「......」
現在クレープはホサカの手元にある。食べようとすればすぐにでも食べられるが、ホサカはそれを躊躇した。
「た、食べたきゃ食べれば? 」
ホサカは顔も見ずに、ファオにクレープを差し出した。
「......いいのか? 」
「い、いらないなら私が食べるわよ! 」
「いる! 」
ホサカが差し出したクレープを自分で持たず、ファオはホサカの腕を掴んでクレープを食べ始めた。
「......」
クレープを食べて幸せそうな表情になるファオを、ホサカは見ていた。そして気付くとホサカは、ファオが食べているクレープに一緒になってかじりついた。
「......美味しいわね」
目をそらし、頬を赤らめながら言うホサカ。するとファオは少年のような笑顔で言った。
「うまいな!! 」
クレープも食べ終わり捜査に戻ると、いつの間にずいぶんと狭い路地裏に来てしまった。人もほとんど通らず、昼間なはずが薄暗くなっていた。子供だったら近づきはしないだろう。
ファオの縄に、震えが伝わってきた。
「あん、おまえガクブルしてんの? 」
ファオが一度立ち止まって振り返ると、そこには先ほどまで元気そうだったが、今は縄を両手でしっかり持ってガクブル震えているホサカがいた。
「べべべべ別に? ちょっと肌寒いかなぁなんて」
「いまきゅうがつだぞ」
怖がっているホサカを引っ張る勢いで、ファオはずんずん路地を進んでいった。
「ちょちょちょちょちょっと! 勝手に動かないで! 」
ホサカがそう言うと同時に、路地の脇に置いてあったゴミ箱がガタンッと音をたてて揺れた。
「ギャーー!! 」
「だれだ! 」
そのゴミ箱のそばから、人影が出てきた。おぼつかない足取りでファオたちに近づいている。いや、ファオたちではなく、ファオに近づいていた。
尻餅をついていたホサカは、その人物に指を差しながらいった。
「ままままま魔薬草の中毒者よ! 首が不規則に震えてるわ! 」
「きょーじんってやつか」
魔薬草の中毒者。狂人。理性がほとんどなくなっており、最近は狂人による傷害事件も増えてきている。
ファオはそんな狂人に臆することなく、むしろ狂人に向かっていった。
「ちょっと! 引っ張らないでよ! 」
縄を一生懸命に掴み目を瞑り、置いてきぼりにされないようにするホサカ。そんなホサカが邪魔だと判断し、ファオは縄を引きちぎった。常人では絶対ちぎれないような縄をだ。
「......え? 」
「おめーはそこでまってろ。たぶんすぐおわる」
そういうとファオは、再び狂人に向かって歩いていった。
「ホサカには、きずひとつつけさせねぇ! 」
両腕を広げて叫ぶファオ。狂人は文字通り狂ったようにファオに向かって走った。端から見ているホサカにとって、これほど怖いことはなかった。
「逃げて!! 早く!! 」
ホサカはそう叫んだが、それをファオが聞く様子はない。むしろ、狂人に向かっていっちょまえに構えている。
そして、今度は目を見開いたファオが叫んだ。
「ひっさつ!! 」
ファオに向かって、ジャンプしながら攻撃しようとする狂人。その狂人に向けて、ファオは必殺の拳を繰り出した。
「ロケットパーンチ!! 」
空中にいる狂人の腹に、ファオはごくごく普通の、ただ威力が馬鹿げているパンチを食らわせた。
「くうぅ! やっぱカックイイなぁおれのひっさつパンチ! 」
右肩を押さえながら腕をブンブン回す。それをぽかんとした表情で見ていたホサカに、ファオは話しかけた。
「どうだ! おれつよいだろ! 」
屈託のない笑顔とキラキラした目を見せられつい臆してしまったホサカは、本音を言えなかった。
技名ダサ!! と。
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