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ファオの体質
サメジマは、ファオが魔薬草を持っていないにも関わらず、魔薬草検査に引っ掛かることに疑問を抱いていた。
謎を解明するため、ファオの体を隅々まで調べあげ、その結果がまとめられた紙を見ていた。
パラパラめくっていると、気になることが書かれているページがあった。
「特殊な体臭あり......? 」
その下部には、匂いの詳細が書かれていた。
「花梨の香り、か......」
バラ科である花梨の果実。のど飴などに用いられるが、ファオがのど飴を食べていたとは考えにくい。かといって、花梨の果汁を全身に浴びていたかというと、そういうわけでもない。
「まさか......! 」
サメジマは急いで鑑識官の元へ向かった。
「おい! 魔薬草はあるか! 」
扉を勢いよく開けると、室内の鑑識官が全員サメジマの方を振り返った。すると一人の鑑識官がジップロックに入った魔薬草を差し出した。
「ありますが......」
「開けても? 」
「まあ、触らなければ......」
サメジマはゆっくりとジップロックの口を開けた。開けると同時にジップロック内の匂いを嗅いだ。
「......この匂いは! 」
-その頃あの二人は-
「なーあー、いつになったらおわんのー? 」
二人がする捜査の内容。それは主に、事件現場周辺の調査と聞き込みである。その時間帯に誰がいたか、近くを通ったとき音がしたかなどを聞いて回るのだ。
道端に犯人の手がかりでも落ちていようものなら、即座に回収して鑑識に渡す。それがホサカの捜査だ。
しかし、現実はそう甘くなかった。
「もーつかれすぎて、おこっちゃうぞおれ? がおーって」
ただの縄ではなく鎖に繋がれたファオは、あまりの捜査の地味さにしびれを切らしていた。顔も心なしか不機嫌そうで、口を尖らせていた。
「静かにしてて......はあ、なんで私がこいつのお守りなんか......」
対してホサカは、自分が嫌いな犯罪者と連日捜査をしていることに疲れていた。子供のようなファオを連れて捜査をするには、少し体力が足りなかった。
「そもそも、あんたが捜査に役立つって言われたから連れてきてるのに、ただ力が強いだけじゃない」
「おれだってきたくてきてるわけじゃねぇよ」
不貞腐れながらも歩くファオは、おもむろにポケットからストラップを取り出した。金色の剣があしらわれたものだ。正直言って中二臭い。
「あんた、何それ? 」
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、ファオは目を輝かせてホサカに説明した。
「ふふーん。サメジマからもらったんだ。いいだろー」
これ以上ないほどのドヤ顔を浮かべるファオだったが、ホサカからすればゴミほどの価値もなかった。
そんな何気ないやり取りをしていると、二人の耳に悲鳴が聞こえてきた。声質的に女性だ。
「悲鳴! 行くわよ! 」
「お、おお! 」
ファオたちは鎖をじゃらじゃらいわせながら、悲鳴の聞こえた場所へと走っていった。
-地下鉄入口-
急いで駆けつけたそこでは、若い女性が太り気味の男性にナイフを突きつけられていた。少し階段を降りた踊り場で、ホサカたちが見下す形となった。
「警察よ! 手に持っているものを捨てなさい! 」
ホサカは咄嗟の判断で拳銃を構えた。いざというときにはいつでも発砲できるよう、引き金に指をかけた。
「クソがぁ、邪魔すんなぁ!! 」
男の注意はホサカへ向いた。そのお陰で女性は地下鉄の中へと逃げることができた。あとはこっちの仕事だ。
「それ以上抵抗するなら、躊躇なく撃つわよ」
「そーだそーだ! こーさんしろ! 」
右手の拳を握って上に突き上げるファオ。まるで子供がエイエイオーとやる感じだ。それが目障りだったのか、男は更に腹を立たせた。
「うるせぇんだゴラ!! 」
男は手に持っていたナイフをファオに向かって投げた。ファオの神がかりな動体視力と瞬発力によって避けたが、今度はファオが腹を立たせてしまった。
「なにすんだ!! あたったらあぶないだろ!! 」
「知るか! 俺は頭きてんだ! もう薬の効果がきれてんだよ!! 」
「薬? 魔薬草のことね!? 」
「ぐ......! 」
男は、口を滑らせたと自分で後悔していた。そしてその場から逃げるように駅内へと走って行こうとした。しかし、怒ったファオはそれを逃さなかった。
「にがすかぁ!! 」
ライオンが獲物に飛びかかるように、ファオは男に向かってジャンプした。そのムーブでファオは男に上からのしかかり、持ち前の馬鹿力でホールドした。
「とりあえず手錠をかけるわ! あの女性に対する脅迫の罪よ! 」
ファオによる拘束はほどかれ、代わりにホサカが男に手錠をかけた。すると少し落ち着いた男は、スンスンと鼻を鳴らすと、ファオの方を見た。
「お前、持ってんな!! それ寄越せよ!! 」
「はあ? なんももってねぇよ? あ、このストラップはだめだぞ! 」
「ちげぇよ!! 魔薬草持ってんだろ!! 早く寄越せ!! 」
ホサカの目線は、一気にファオに寄った。
「あんた、やっぱり持ってるのね!? 」
「もってねぇよ! こいつがかってにいってるだけだって! 」
いくら論争しても答えは出ない。そんな状況に終止符を打った人物がいた。
「それはお前が、魔薬草の匂いを漂わせているからだ!」
「サメジマさん! 」
駅の入口、階段の上から話したのは、ファイルに挟まった資料とスマホを持ったサメジマだった。サメジマは階段を下ってきて言った。
「ファオはなぜか、体から魔薬草の香りを漂わせているんだ。だから魔薬草検査にも反応するし」
ファイルをホサカに預けると、サメジマは手錠をかけられた男の服の襟を掴み、持ち上げた。
「こいつみてぇな魔薬草の準中毒者や狂人に目をつけられるんだ」
「うう......」
サメジマはその男を署に連行するため、そのままその場を去った。しかし、ホサカには一つ疑問があった。
「あの、なんでここに私達がいると分かったんですか? 」
階段を登っていたサメジマは振り返り、理由を実に簡単に説明した。
「ファオが持ってるストラップあるだろ? それに発信機がついてんだ。ファオはそういうの好きだと思ってな」
まんまと術中にハマったと、少しだけ落胆するファオ。そんな光景を、遠くから見る影があった。
-???-
「で、どうだったんだゴラ、ファオは」
「噂通りの強さだ。さすが、あの方の最高の失敗作と言ったところか」
「はあぁゾクゾクするわぁ。やっぱりあたしが偵察に行きたかったぁ」
「先輩が行ったら、ファオくん骨抜きになっちゃいますね」
「まあ、そのうち我々の研究材料にすることになる。その時は味方。逆らえば」
あの方の息子だとしても殺す
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