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開放
「きょ、きょうだい!? 」
上体を反らせて驚くファオ。それを後ろから見ていたホサカは、男に見覚えがあった。いや、そのレベルではない。
「カミシマ財閥所属魔薬草特別取締班及び魔薬草研究チーム、オグラヤマ......」
「知ってんのかアマ」
「警察官なら、知らない人はいないわ」
そう言いながらも、ホサカの手は自身の体に隠された拳銃に近づいていた。
「単刀直入に言うぞオラ。ファオを保護させろ」
「ほご? まもってくれんのか? 」
緊張感のないファオとは対照的に、冷や汗を滴しながらも、口の端を少し上げながら喋るホサカ。なるべく時間を稼ぐのだ。
「そうだゴラ。まあ、逆らえばどうなるかわかんねぇけどな? 」
「......あなたたちカミシマ財閥の職員は法律がきかないものね」
カミシマ財閥。日本の裏社会を牛耳るナンバーワンの財閥。カミシマを創設者とするその財閥は、魔薬草の研究が世界で一番進んでおり、魔薬草関係の事件の調査において、財閥職員に対してはどの法律もその効力を失ってしまう。
「警察は話が早ぇなコラ。その通りだ。魔薬草を取り締まるためならなんでもしていいんだよ。正真正銘......なんでもな」
最後だけ声のトーンが下がった言い方になったその時、オグラヤマが持っている刀がキラリと光った気がした。まるで、逆らえば命はないと言っているような感じだった。
「だが正直なところ、俺はファオと殺し合いてぇんだよオラ」
「おれとか? 」
「ああ、ずっと思ってたんだよカス。俺の兄弟は強ぇのかってよ」
「だから、さっきからきょうだいきょうだいってなんなんだよ! 」
オグラヤマに向かって何度も何度も指を差して質問を投げつけるファオ。それに反応して、オグラヤマは刀を構えた。
「それはな、俺に勝ったら教えてやるよゴラァ! 」
すると、オグラヤマは刀を大きく振りかぶり、ファオの真上から脳天を真っ二つに切るイメージで刀を振り下ろした。しかし、ファオの神がかりな動体視力と直感によって回避した。
「あぶねぇな! あたったらどうすんだよ! 」
「反抗したからやむを得ず切ったと報告するぜオラ! 」
「あくまか! 」
今度はファオの番だ。ファオは最初から必殺技を使う系男子である。ゆえに、今回も必殺技の構えをした。
「ひっさつ!! 」
右手を大きく引き、力を溜める。そして、あの技名と共に一気に解放するのだ。
「ロケットパーンチ!! 」
ファオの必殺パンチはオグラヤマの腹に当たった。常人のあばら骨など簡単に折れてしまうようなパンチだ。しかし、オグラヤマはビクともしなかった。
「そんなへなちょこパンチで、俺を殺せると思うかカス!! 」
再びオグラヤマの上からの斬撃。ファオも今度ばかりは避けきれず、左腕が肩から肘にかけて切られてしまった。傷は浅いが、出血量は普通ではなかった。
「ああッ! いってぇえええ!! 」
腕全体を駆け巡る激しい痛みがファオを襲った。痛みに悶え苦しんでいると、オグラヤマは刀の構えをほどき、腕から力を抜いてリラックスさせた。そしてファオに言った。言われる側は想像もしていないような言葉だった。
「お前やっぱり、自分で制御してるな、力」
これにはホサカも驚いていた。しかしその後、そんなわけがないと思い直した。人一人簡単に吹っ飛ばし、自分よりも背の高い成人男性を相手に圧勝するなどの功績があるファオ。これで力を制御しているなどと言ってしまったら、誰もファオを捕まえることができないだろう。
「......は? 」
「やっぱり自分で覚えてねぇのか......じゃあこれをお前にやるよカス」
オグラヤマが懐から取り出しファオに投げたのは、怪しげな液体の入った小瓶と注射器であった。
「これ、なんだ? 」
「お前のリミッターを解除する特殊な魔薬草だコラ。それを注射すれば強くなれるってことだよオラ」
これが、とファオは小瓶と注射器を見た。強くなれる。その言葉は、ファオにそれを使わせるのに十分な言葉であった。
しかし、それを許さない人物がいた。
「ファオダメ! それを使ったら、あんたは魔薬草中毒者にまっしぐらよ! 騙されないで! 」
「邪魔すんなアマ! これはファオの問題だ......第一、もう既にファオは魔薬草所持で現行犯だぞオラ。なんで逮捕しねぇんだコラ」
しないのではない。できないのだ。一緒に捜査をし、一緒にクレープを食べ、一緒に悪に立ち向かった。同棲までし始めて今更、ファオを逮捕する思考回路など、ホサカにはなくなってしまったのだ。しかし、自分はベテランである。もし家族が罪を犯したとしても逮捕しなければならない。
そんなホサカの葛藤をよそに、オグラヤマはファオに魔薬草を勧めていた。
「俺としては、お前が力を目覚めさせてくれりゃ、退屈しねぇで済むんだコラ。お前も、俺に勝ちたいだろオラ」
手を震わせながら小瓶と注射器を眺めるファオ。すぐそこにある力の解放を、自分で制御しているのだ。そんなのは
打った方が楽だと割りきってしまう。
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