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「猫被ってるかもしれませんよ?」
「初手ビールの人が何言ってんだか」
枝豆をぽつぽつとつまみながら、信が言った。確かに、と琉花は相槌を打った。
合コンは何事もなく、皆楽しそうにしながら終わりの時刻を迎えようとしていた。琉花は信以外の男とは特に会話することもなく、ずっと居酒屋ゾーンで枝豆とビールを両手にキメていた。
会計を終え、それぞれが良さげな雰囲気を作りながら自宅へと帰っていく。幸せそうな表情を浮かべる美遥に琉花は「良かったね」と心の中で言った。騙されたとは言え、美遥は大事な親友。その親友が幸せならば、琉花も幸せだ。
「琉花ちゃん、家どこ? 送るよ」
「あ、大丈夫です」
「……口説いてるって言ったから、警戒してる? 俺、さすがに送り狼しないよ?」
「いや、純粋に申し訳ないと思ってるからです」
空は既に暗闇に染まっていた。大都会の東京では夜になっても街が明るすぎて、星一つすら見えない。いつか東京でも満天の星空を見てみたいものだ。
信は空を見上げてから時計に目をやる。時刻は21時を過ぎていた。
「いや、もう夜遅いし送るよ。死なれちゃ困るしね」
「勝手に殺す展開に持って行かないでください」
ハハッと信が笑った。琉花も可笑しくなって笑う。自然と二人の足は駅へと向かっていた。
騙されて合コンに参加することになったが、案外騙されるのも悪くないかもしれない。いつしかそんなことを思っていたことに琉花は気づいた。
騙されるのも、また出会い。
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