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「ま……じかよ」
胸元で風に揺れるリボンを眺めながら、グルグルと思考を巡らせる。
優樹、女だったのか。そうか。驚いた。でもまぁ、性別がどっちでも優樹への想いは変わらないから、これはこれで全然オッケーだ。
いやまてよ?俺、結構優樹の前で下ネタ話してたぞ?おっぱいのどういうところが最高なのか、とか熱弁したり……。
つーかそもそも。こんな長い期間、全く気が付かずに男子だと思ってた時点で、俺、アレじゃね?
デリカシーなさすぎじゃね?
(俺、クソ側じゃんんんんん!?)
脳内で叫び声を上げる俺に、優樹は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんね、あっちゃん。言うタイミング掴めなくて」
「いや、俺の方こそ……え、でもお前、中学の制服、男子のやつだったじゃん」
「西中はスカートかスラックスか選べるんだ」
「おお、なるほど。素晴らしいな」
それっぽい返事をしながら、頭の中は真っ白だ。どうする?どうやって今から挽回できる?
さっきよりも大量の汗をダバダバと流す俺をよそに、優樹は信じられないことに、フワリと穏やかに笑った。
「あっちゃんは全然変わってないね」
「へ?」
「覚えてるかな。小学校の時、自分よく『太っちょ男女』ってからかわれてたんだけど」
覚えてるも何も。ついさっき回想したほど強く残ってる記憶だ。もしかして俺、あん時からやらかしてるのか……?
「あの時、あっちゃん、自分にこう言ってくれたんだよ。『男とか女とか太ってるとか痩せてるとか。そんなの関係なくて、俺は優樹そのものを尊敬してる』って」
頬を染めてはにかむ。首を少し傾げた拍子に、いつかみたいに前髪が揺れた。
「自分も、男とか女とか、そんなこと関係ないほどあっちゃんが好き」
出しっぱなしだった右手を、そっと握られる。
「返事はもちろんオッケーだよ」
「マジか。うん。アレだ。嬉しい。あー!俺、すげー嬉しい!」
小さな手をギュッと強く握りかえす。優樹は「痛いよ、あっちゃん」なんて、困ったように笑った。
あー、最高に幸せだ!
「あ、でも、あっちゃん」
「ん、なんだ?」
「自分、おっぱい小さいけど、それでも大丈夫?」
真剣な眼差しで心配そうにこちらを覗き込むその視線に、サーっと血の気が引く。
「あ、う、そんなん!大丈夫!大きくても小さくても!優樹のおっぱいそのものが好きだ!」
「あっちゃん、それ、全然かっこよくないよ」
「……だよな。ごめん」
嬉しいやら情けないやら、複雑な気持ちのまま、いつものように錆びたブランコに並んで座って、終いには同時に吹き出した。
ひとしきり笑ってから、これからは世界一デリカシーのある男になろうと、固く誓いを立てたのだった。
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