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「昨日ポケットを叩くとビスケットが出てきて、もひとつ叩くとバスケットが出てきて、もひとつ叩くとロケットが出てくる夢見たんだけど予知夢だったらどうしよう」 「バスケットにビスケット入れてロケットでピクニックでも行けばいいよ」  朝から真剣な顔で世界一余計な心配をしている鈴鳴くんはいつも通りだった。  昨日担任から彼の転校が発表されて、漠然と何かが変わる予感がしていたがそうでもないらしい。 「ピクニックか。もうすぐ春休みだしそれもいいかもね」 「ロケット無視なら素敵な計画なんだけどなあ」 「いっそ他の惑星にでも行っちゃおうか。火星とか」 「一駅先まで歩こうみたいに違う星行かないで」  黒板の端にチョークで書かれた『春休みまであと三日!』という文字が目に入る。  三日後は終業式だ。彼の最後の登校日。私はそこで告白されるのだろう。  なかなか厳しい状況だな、と私は他人事のように思った。  もし告白に失敗しても私たちは二度と顔を合わせることはない。その後の毎日が気まずくなることはないだろう。それに告白が成功しても即遠距離恋愛だ。  断りやすいシチュエーションすぎる。計画的告白ならそんな日は選ばないはずだ。  これは本人も思わず告白してしまうやつかもしれない。最後の最後に追い込まれて想いが溢れ出すパターンか。  それなら今の鈴鳴くんから私への恋愛的好意が一切感じられないのも頷ける。 「七星さんは春休み何かするの?」 「あーそういえばまだ何の予定もないや。鈴鳴くんは引っ越しだよね」 「そうだね。まあ引っ越しくらいで、他は特にないけど」 「私も何か考えないとなあ。春休みって短いし結局何もせず終わっちゃうこと多い」 「ぼんやりしてると時間っていつの間にか過ぎていくよね」  鈴鳴くんの目元に影が落ちたように見えた。気のせいかもしれない。 「あーあ、春休みだけ一日が四十八時間になればいいのに」 「わかる。そうなれば思う存分ぼんやりできるし」 「問題は時間のほうじゃないみたいね」  私たちが笑うと、合わせたようにチャイムが鳴った。  鈴鳴くんとの会話はすごく楽で、楽しい。でもまだ私は彼と友達以上の関係になるのは想像できなかった。  たぶん、私は彼の告白を断るんだろうな。  三日後を思い浮かべると、予知とは違う痛みが胸に走った。
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