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「昨日自分の部屋で雨乞いしてたら激怒した大量のてるてる坊主が襲い掛かってきて僕の部屋がめちゃくちゃにされた夢見たんだけど予知夢だったらどうしよう」
「雨乞いやめたら?」
今日も朝から自業自得な夢を話す鈴鳴くんは「その手があったか」と安心したように席についた。
夢はその日の総まとめみたいなものだと聞いたことがあるけど、一体どんな一日を送れば彼のような変な夢が見られるんだろう。
「鈴鳴くん雨乞いとかするの?」
「現代人は雨乞いなんかしないよ。むしろ雨降るなって思ってたくらい」
「あ、てるてる坊主側なんだ」
「そう。僕たちは争わなくていいはずなんだ」
鈴鳴くんは笑った。
彼の向こう側には大きな窓があって、その向こうには青空が見える。なんとなく彼には雨より晴れのほうが似合いそうだなと思った。
「雨降ってほしくない日っていつ?」
「終業式だよ。僕にとっては卒業式かも」
「確かに最後の日だし晴れてほしいよね」
「そうだけど、それだけじゃなくて」
ぷつんと切られた台詞に首を傾げると、鈴鳴くんは少し照れたようにはにかんだ。彼のこんな顔を見たのは初めてでドキリとする。
「憶えてる? 僕たちの入学式の日。快晴でさ」
「え、そうだったっけ?」
「そうなんだよ。桜がすごく綺麗で感動しちゃったんだよね」
彼の言葉で、私は入学式の日に桜がよく咲いていたことを思い出した。
ブレザーの襟についた花びらを見て私は高校生になったのかと思った覚えがある。
高校では普通の恋愛がしたいなんて、叶わぬ願いを抱いたりしてたっけ。
「もう一回その景色見て終わりたいなって思ったんだ」
ああ、と私は今更になって気付く。そうだ。いつも通りのはずがない。
彼は着々と終わりに向かって歩いてるんだ。
「……じゃあ私、帰ったらてるてる坊主つくるよ」
「お、なら僕もつくろう。これで効果二倍増しだ」
鈴鳴くんはいつものように笑う。たぶん私もいつものように笑い返せた。
彼とこうして過ごせるのもあと二日。そう考えたとき、自分の中に想定外の気持ちが湧き上がってきた。
……もしも。
もしも私が彼の告白をOKしたら、これからもこの笑顔を見てられるんだよね。
「七星さん」
「え、あ、なに?」
「見て」
鈴鳴くんは私の前を指差していた。
彼の示す先を目で追うと、そこにはどこから入ってきたのか、私の机の上に一枚の薄桃色の花びらが乗っていた。
「綺麗だね」
小さな花びら一枚を見て鈴鳴くんは見惚れるような表情を浮かべる。
彼にそんな表情を向けられる桜の花びらに。
私はほんのちょっとだけ、いいな、と思った。
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