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「昨日は夢を見なかったんだけど、それ実は僕の脳が即座に削除してしまうほど悲惨な夢を見てしまったから憶えてないだけで途轍もなくやばい予知夢だったらどうしよう」
「君の心は休まるところを知らないね」
今日も朝から心が忙しない鈴鳴くんは「でも僕が本当に超能力者でない証明は誰にもできないしさ」と抵抗を見せながら席につく。
「けどなんで鈴鳴くんは予知夢を見たいの?」
私はついそう尋ねていた。
瞬間移動とか空中浮遊とかそういう能力なら便利そうだけど、よりによって予知夢だ。未来がわかったって何も良いことなんてないのに。
「未来が見たいんだ」
「でも見えるだけだよ? 見えるだけで変えられないなら知らないほうがいいでしょ」
「見えるなら変えられるかも」
「無理だよ。そういうものじゃない」
こんなことを言うのは不自然だとわかりながらも、一度話し出してしまったらもう駄目だった。今まで誰にも言えず押さえつけていたものが堰を切ったように私の口から溢れ出す。
「たとえば未来で大切な人が怪我をするってわかってて、どんなにそれを止めようとしたって結局怪我しちゃうんだよ。道が違うだけで行き先は一緒なの。だから予知ができても、どうすることもできない自分にがっかりするだけ」
言い切って、私は息を吐く。言ってしまった。でもこれが真実だ。
私たちに未来は変えられない。
私の話をじっと聞いていた鈴鳴くんは少しの間考えるようにして「そうかな」と異議を唱えた。
「僕には変わってるように思うけど」
「どこがよ」
「だってちゃんと自分は変えられてるし」
「自分?」
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