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彼の言葉の意味を捉えきれず私は戸惑う。鈴鳴くんは「うん」と頷いた。
「未来を変えたいならまず自分を変えなきゃいけないと思うんだ。自分が変わらなきゃ未来なんて変わらない」
「まあそうかもだけど」
「だよね。で、未来を変えようと頑張る自分は、未来を知る前の自分とはもちろん違う。策を練ったり、普段と違うことしてみたり、思いつく限りの作戦を決行したりさ」
「でも結局未来は変えられない。それじゃ全部無駄でしょ」
「本当に?」
真っ直ぐにこちらを見る彼は私にそう尋ねた。私はその目を見られない。
「その人のためにしたことも、その人のために考えたことも、全部無駄だった? 本当に?」
「それは……」
「僕はそうは思わない」
彼の力強い声が、私の中に響いた。
「最後には怪我することになっても、未来を変えようと頑張ってくれたことは絶対相手に伝わってる。それはその人にとって間違いなく救いになってるはずだ。死にたくなるほど深い傷も、ほんの少しだけ浅くなるかもしれない」
――君を好きになってよかった。
傷つきながらも笑っていた彼らの言葉をふと思い出す。
「それは、未来を変えたことにはならないかな」
私は何も言えなかった。胸が詰まって、言葉が出てこなかった。
そうなんだろうか。私は彼らの未来を少しでも救えてたんだろうか。
私の問いかけに答えるように、鈴鳴くんは「だからもしも」と優しく微笑んだ。
「もしも七星さんに予知能力があったら、きっと周りの人は幸せだろうね」
強い鼓動が胸を打つ。
その鼓動は優しい熱を帯びていて、熱くなった両目から涙が溢れそうになった。私は机の下で拳を握り締めて堪える。
「……鈴鳴くん」
「ん?」
「ありがとね」
「え、なにが?」
なんでもないよ、と私は笑う。彼は困ったような表情を浮かべた。
始業のチャイムが教室中に鳴り響く。ぞろぞろとクラスメイトが席に戻っていく。また、今日が始まる。
……ああ、こんな気持ち初めてだ。
明日が待ち遠しい、なんて。
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