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彼女の言う通り、不老不死の技術は戦火を呼んだ。
ヒトは焼き払われた。
ヒト自身に。
国が南館とウィキラに業を煮やしている間に研究所を出た私は、争いが起こるたびに移動し、戦火を避けて、流れ、流れていった。
彼女の死を聞いても戻らなかった。
ウィキラが処刑されたのは、彼女が研究所を去ってから7年後だった。
私は遠い西の地で聞いた。
アトヤの消息を知るため、あるいは不老不死の情報を得ようと、ずっと生かされていたのだろう。
口を割らない彼女が何をされたのかは、考えたくない。
結局、彼女の研究は再現できず、別な国で不老不死の技術は確立された。
アトヤがその国にいたのかは分からない。
ヒトの数が減りすぎると、社会は崩壊し、転がり落ちるように種族は滅んでいった。
社会機能を維持するため、足りない人口をアンドロイドで埋めたいくつかのコミュニティは生き永らえたが、国家は消滅し、原始の時代に戻っていた。
廃墟の間を歩く。
半分機械化した身体。
思考のほとんども、電脳補助を使っている。
引き金を、彼女が引いたとは思わない。
いずれこうなったのだろう。
むしろ彼女は、最後の抵抗だったのかもしれない。
崩れ落ちた南北の両館。
それなのに。
中庭には、変わらずにあの桜が咲いていた。
早春の日差しの中で。
静かに。
人間の生も、死も知らず。
ただここに、立ち続けていた。
「残されてしまいましたね」
ヒトの死に絶えた世界に。
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