⑦13番目の呪われ姫は最後の日に想いを馳せる。

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「で、せんせー? いつまで拗ねてるんです?」  話進まないんだけど、とため息混じりに伯爵が聞くと、 「伯爵くんのせいで私のやる気メーターゼロどころかマイナスです。先生は激おこですよ。ご機嫌取ってくれないと質問は受け付けませーん」  ベロニカはプイッとそっぽを向いて自作の絵本をパラパラとめくり、昨日徹夜で頑張ったのにぃと文句を述べる。 「この先生面倒くさいな。ヒトの事バシバシ叩くし、すぐ拗ねるし、機嫌取り強要するし。体罰の上にハラスメント。問題教師に師事する事もなさそうなんで俺退学しますね」  伯爵はいつも通りのローテンションで淡々とそう言うとさっさと荷物をまとめて帰ろうとする。 「にゃーー伯爵っ!! 今日はまだ暗殺だってしてないじゃないですか!?」  本当に帰る気ですか!? とベロニカは慌てたように伯爵の方を見る。 「時間がもったいないので、姫の機嫌が直った頃にまた来ます。いつになるかは保証しかねますが」  自宅で会議資料と報告書読みたいんで帰りますと身支度を整え上着を羽織った伯爵は、ベロニカを放置で帰ろうとドアに手をかける。 「上着掴まれたら俺帰れないんだけど」  ガシッと上着の裾を掴んだベロニカは、うぅっと小さくうめいて、 「……帰っちゃ、嫌です」  かろうじて聞こえるくらい小さな声でそう言った。 「俺に何か言うことは?」 「叩いてゴネてごめんなさい」  しゅんと小さくなったベロニカが素直に謝ったので、伯爵はベロニカの銀色の髪をくしゃくしゃに撫でながら、よくできましたと少しだけ表情を崩してそう言った。 **** 「それで、急にどうしたのですか? 今更王家が呪われた理由を聞きたいだなんて」  魔女に呪いをかけられたなんて話、この国の人間なら子どもに寝物語として聞かせるほどよく知っている話ではないですか? とベロニカは伯爵に古くなった緑茶で作った自家製のほうじ茶を出しながら尋ねる。 「些細な事でもいいので、まずは情報が欲しくて」  呪われ姫を暗殺するのではなく呪いを解く事を目指すといった伯爵は、ベロニカの猫のような金色の目を見ながらそう答える。 「当事者から聞けばまた違った情報が出てくるかもしれないと思いまして」  実際、俺の知っている話と少しちがいますし、と伯爵は先程ベロニカが語った内容と寝物語に子どもに聞かせる魔女の話の違いを考える。  子ども向けのお話はもっと教訓めいていて、"約束を守らなければ悪い魔女に呪われる"と言った内容だった。 「そうなのですね。私はほとんどこの離宮や王城敷地内から出ないので、てっきり同じ内容かと」  この話も母に聞いた内容ですしとベロニカは絵本を差し出す。  それを受け取った伯爵は質問いいですか? と尋ねる。 「こう、姫の絵が独特過ぎて内容が頭に入って来ないんだけど」 「今更オブラートに包まなくていいですよ」  さっき下手ってはっきり言ったじゃないですか、とベロニカはため息をつく。  そんなベロニカの頭を軽くポンポンと叩きながら、伯爵は絵本をめくり指をさす。 「"呪い"は分かるんです。13番目に呪われた子が生まれてくるから。じゃあ"祝福"は?」  何を指すか知っているかと問われたベロニカはゆっくり首を振る。 「与えられた"力"が王として国を治めることなのだとして"祝福"として何を得たのかは分からないのです」  子が"呪われる"代わりに得られる"祝福"の何か。  それは一体なんだろう? と伯爵ははじまりの日に思いを馳せる。
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