第三十七話:魔犬は吠え、孤狼は目覚める

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『あ、あれは先ほどの教敵の機体!?』 間違いない。 ライラプスだった。 しかし、その細部は先ほどまでの陸戦機のそれではなく、背部の大型フライトユニットや、空気抵抗対策に拵えられた胸部装甲板、両手足についている姿勢制御用バランサーなど、明らかに異なっている。 そう。 まるで、生粋の空戦兵器かのように。 『へへッ。直撃、大当たり。とんでもねぇスピードで飛べるんだな、この、えーと………』 『ドレスアップオプション、フライヤークロス。DOGより、、ライラプス専用の換装ユニットです。』 DOG。 即ち、Dressup Option Generatorの略称である。 その機能は、読んで字の如く、ライラプスの換装パーツを、アイのデータから生成できること。 つまり、あらゆる戦況、戦局に合わせて、最適な武装(ドレス)にて臨むことを可能にする、戦闘支援用ユニットである。 『ば、馬鹿な………戦闘中にパーツを作り出し、その場で換装しただと………信じられん………!!』 司祭が驚愕したのも無理はない。 乱暴な言い方をするなら、一般的なPTの3分の2程度の小型ユニットが、精密な兵器工場に匹敵するスペックを有しているということ。 パーツに用いる資材は。 そもそも、生成に用いる莫大なエネルギーは。 余りにも常識から外れた、型破り極まりない戦術に、驚愕を通り越し戦慄すら覚えてしまう。 『敵は、どうやら浮き足立っているようですね。』 『………嬉しそうだな、お前。』 『僕はAIですよ。そのような感情は持ち合わせてません。』 『あー、そうかい。とにかく、速攻で行こうぜ。せっかく、スピード自慢の機体になったんだしな!!』 ライラプス、フライヤークロスが、その名の通り空を舞う。 換装パーツである大型背部バーニアが、爆発と見紛うような炎を吹き上げると同時に、エルシュナイデ部隊の有視界よりライラプスの姿が消えた。 『は、速い!!』 『ば、馬鹿!!目ではなくレーダーで追えば!!』 『だ、駄目だ!!我々の反応では、とても捉えることは………』 尋常ならざる運動性能。 教団の戦闘要員として、それなりに訓練を積んできた信徒らの反応が、まるで間に合っていない。 右往左往するしかない致命的な隙を、イツキは見逃さなかった。 『棒立ちかよ。だったら、遠慮なく!!』 コーティングソードの一閃が煌めき、1機のエルシュナイデが胴部を輪切りにされる形で撃墜された。
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