第三十七話:魔犬は吠え、孤狼は目覚める

11/26
前へ
/79ページ
次へ
『まだまだ行くぜ!!』 ライラプスFCの腰部から、硬質ワイヤーで編まれたロープの先端に、小型の錨状ユニットが取り付けられた、マニューバーアンカーが射出された。 本来なら機動制御に用いられる、機体補助用兵装が、狙い通りにもう1機のエルシュナイデへ着弾した。 『グッ………な、なんだ、このワイヤーは!?外れん!!』 『捕まえた………!!アイ、エネルギー全開だ!!』 『了解。両腕のギアが焼けつくほど、ありったけのパワーを注入します。』 ライラプスFCは、両手でワイヤーを掴むと、全力を込めてエルシュナイデを振り回しにかかる。 既に動揺の極みに陥っていた信徒のエルシュナイデは、録な抵抗も間に合わず、力任せに振り回されていった。 『な、なんだとォッ!?』 そしてそのまま、少し離れた位置にいたエルシュナイデへ、遠心力をたっぷり蓄えたエルシュナイデが激突。 さながら、巨大なハンマーに見立てられ、「武器」として扱われた側はもちろん、食らった側もタダではすまない。 2機のエルシュナイデは、断末魔を上げる間もなく粉々に砕けて撃墜となった。 『よしよし、これで残るは大将だけか。』 『最後はやはり、一騎討ち、サシ、タイマンですね。』 『お、おのれ………おのれ、おのれェッ!!』 あっという間だった。 この僅かな攻防で、たちまち残るは己のみとなった司祭は、震えた声で怒りを露にする。 ライラプスという変幻自在、千変万化の機体の強力さ、トリッキーさは言わずもがなだが、問題はこのイツキというパイロットと、搭載されているアイとかいう戦闘用AIだ。 怜悧冷徹に戦局を見極め、最適な戦略を見出だす聡明さに、それを実現できるだけの戦術能力。 単純にパイロットの能力だけを見るなら、荒削りで強引な、雑さの目立つものだろう。 しかし、あのDOGというユニットが生成する換装パーツにより、ガラリと変わった機体特性へ瞬時に適応した順応性。 そして、その適応能力を活かしきる、反射、反応もズバ抜けている。 まさに、「原石」とでも言うべきだろうか。 にも関わらず、この段階で己を圧倒する戦闘能力。 もしも。 もしも、このパイロットがそのポテンシャルに追いつき、持てる力をフルに使えるようになったなら。 『貴様はここで駆逐する………!!いや………駆逐せねばなるまい!!』 手に負えぬ存在になる前に、確実に潰すべき。 それは、教団に対する信義か、それとも胸の内に生じた本能的な恐怖を払拭するためか。 とにもかくにも、司祭の決意はこれで固まったと言える。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加