第三十七話:魔犬は吠え、孤狼は目覚める

12/26
前へ
/79ページ
次へ
『へぇ………!!』 イツキの憎まれ口が止み、表情から笑みが消えた。 司祭の発する勝負手の気配を、気迫を、直感的に感じ取ったのである。 『イツキ。ここは、フライヤークロスの機動性を活かし、少しずつ、確実に削っていくことをお進めします。』 『いや。それじゃあ、ダメだ。』 『理由を聞かせてもらいたい。』 『喧嘩は、ビビったら負け。そういうこった。』 『意味不明。なんの解答にもなってません。』 『うるせぇ!!四の五の言わず、エンジンをフルドライブだ!!お前の言う通り、フライヤークロスの機動性を利用した攻撃で決着をつけてやる!!』 『まったく、いつものことながら、合理性の欠片もないことですね。』 ともすれば、愚痴とも取られかねない発言をしつつも、エンジンの回転数を上げてゆくアイ。 それを確認したイツキは、満足げに、しかし小さく笑みを浮かべ、操縦桿を強く握り締めた。 対峙し合う、ライラプスACと、指揮官用エルシュナイデ。 風が荒れ狂う荒野の上空で、まるで西部劇の早撃ち対決のように1対1でにらみ合い、たっぷり10秒は過ぎただろうか。 『………全ての生命に、正しき死を!!』 先に動いたのは、司祭のエルシュナイデだった。 単純なスピードで言えば、ライラプスACに分がある以上、先手を取り、主導権を握りたいと考えるのは間違った選択ではない。 『速い………!!』 掛け値なしの全力全開、後退など一切考えていない突撃だった。 それはイツキが漏らした言葉通り、凄まじい速さと、必殺の意思に満ち溢れている。 『オォォォォォォォォォッ!!』 エルシュナイデの両手に握られたメガプラズマカッターが、一際大きく膨れ上がった。 恐らく、兵装のリミッターを強制的に無視したのだろう。 もしも外したなら、武器どころか腕そのものが砕け散りかねない威力。 背水の覚悟を決めた者だけができる戦法である。 防御など論外。 下手な回避など、追撃を許す隙を生むだけとなる。 ならば。 『ギリギリまで引き付けて、カウンターだ!!』 『………』 アイが無言だったのは、イツキの解答が正解だったからだ。 要は、紙一重で見切った上で反撃に移るということ。 なるほど、言葉にすれば簡単である。 問題は、そんな高度な回避マニューバーを、戦闘経験値の浅いイツキにこなせるかどうかという点だ。 だからこそ、何も言わずに賭けたのだ。 イツキの内に眠る潜在能力が、ここ一番で、僅かでも発現することに。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加