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「男」は、改めて周りを確認する。
周囲は、完全に囲まれていた。
あの「教団」が有する戦力、ラストバタリオンの主力機であるエルシュナイデ。
己の搭乗する、リペアにリペアを重ね続け、とうに耐久限界など超えているレイブンMk‐Ⅱとは性能差は雲泥である。
幸い、パイロットどうしのスペックは「男」の側が全てにおいて勝っているため、奴らの猛追をかわし続けてきたが、それももう限界だろう。
『総員、陣形を組み直せ。総攻撃を仕掛けるぞ。』
ラストバタリオンらの空気が、重く、厚く変化してゆく。
止めを刺しにくる気なのだろう。
91機。
気の遠くなるような思いをして、ようやくこれだけ墜とせたが、敵はまだ多く、更に増援も控えている。
状況は、最悪どころではない。
既に詰んでいるのだ。
ここが、今が、己の死に場所。
それを悟った「男」は、久方ぶりに。
本当に久方ぶりに、小さく笑った。
そして、レイブンMk‐Ⅱは背後の朽ちかけた軍事基地へ。
正確には、その軍事基地の内部に隠した、「希望」の欠片へ意識を向けた。
ここの位置情報は、仲間達へと報せてある。
合流まで、あと10分程度という返事も返ってきていた。
つまり、およそ600秒、己が命の灯を燃やしつくし、この場を守りきればいい。
自分は、確かに死ぬだろうが、その「意思」は受け継がれていくだろう。
奴ら、「教団」の言う「正しき死」とは一線を画する死生観が、沸々と「男」の内に「何か」を湧き上がらせる。
その「何か」とは、「勇気」に他ならなかった。
『ゆけ!!信徒達よ!!』
号令と共に、怒号が。
そして、銃声が轟く。
『 』
「男」もまた、吼えた。
爆音にかき消されるとわかっていても、腹の底から、声の限り、命の限り。
繰り返す。
ラストバタリオンのエルシュナイデ隊と、「男」のレイブンMk‐Ⅱでは、前者が圧倒的に有利であり、ぶつかり合ったなら十中八九勝利は揺るがない。
それでも、4分間。
その240秒の間、ラストバタリオンは、更に20機に及ぶ撃墜を許してしまう。
刀折れ、矢は尽き、満身創痍、疲労困憊だったレイブンMk‐Ⅱと「男」を相手に、100機以上ものエルシュナイデを失ってしまったのである。
そして。
両手足を失い、装甲板のほとんどを失い、頭部の半分を吹き飛ばされたレイブンMk‐Ⅱは、ようやく動きを停めた。
コックピット内部より、生命反応は見られない。
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