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第三十七話:魔犬は吠え、孤狼は目覚める
◯
渇いた大地。
散乱する人とも獣ともわからぬ、得体の知れぬ白骨。
吹き荒ぶ風は冷たく。
一筋の陽光すら差さない、無限かと思える果てなき荒野。
おおよそ「命」の気配など微塵も感じられない世界に、ただただ爆音のみが響き渡る。
『また3機撃墜されただと!?これで何機目だ!?』
『91機………おのれ、あんなロートル機に、我が教団の最新鋭機が………!!』
まるで道標のように点々と転がる鋼の巨人の残骸が語る、「その機体」の。
否。
「その機体に搭乗する者」の、比類なき戦闘力。
『何をやっている!!いくら凶鳥の名を冠する機体とはいえ、こちらはカスタムを施したエルシュナイデの部隊だぞ!!それがなんたる体たらくか!!』
しかし、それを認めたくないのか、本当にわからないのか、この期に及んで指揮官は的のズレた檄を飛ばすだけだった。
無理もないだろう。
彼ら、「教団」と呼ばれる集団の教義の中に、「人間の強さ」を積極的に肯定するものはない。
故に、わからないのだ。
命の輝きが。
その命を完全燃焼させた「人間」が、どれだけの力を発揮するのかも。
ましてや、その男は、「かつて」、「人類最強」とまで謳われた人間なのだ。
しかし。
『怯むな!!我らの教義を忘れたか!?応えよ、信徒達よ!!』
『『『あらゆる生命に、正しき死を!!』』』
『そうだ!!貴様らの命は、開祖と共にある!!恐れるな!!立ち向かえ!!全ては、開祖と神のために!!』
それだけだった。
ただそれだけで、先ほどまで浮き足だっていた軍勢から、波が引くように動揺が消えてゆく。
相対する「男」は、愛機である2番目の凶鳥。
レイブンMk‐Ⅱのコックピット内で、小さく舌打ちをする。
わかっていたことだ。
奴らは、「教団」の人間は、死など恐れずむしろその逆。
死に対して、憧憬すら抱いている連中だということを。
沸き上がるのは憎悪か。
間違ってはいない。
だが、一番大きかったのは、嫌悪。
これまで、幾度死線を潜ってきただろう。
幾度命を燃やしてきただろう。
それでも、取り零したものの方が多かった。
大切な者の命はもちろん、己も左手も、もはやなくなっている。
そしてそんな己に、今現在、突きつけられている、「死」という現実。
気づけば、思わず歯を食いしばっていた。
悔しい。
こんな連中に、命を、生きるということを知らない者達に追い詰められていることが、何よりも悔しかったのだ。
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