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「お前、曲りなりにも女なんだから、考えて付き合えよ、危ねぇぞ」
手馴れた仕草で焼き鳥の串を回しながら、昂大が口を開いた。
「わかってるよー、ちゃんとその辺は考えてるから」
「たまたま、やべぇヤツに引っかかってないだけで…わかんねぇだろ?嫌だって訴えて止まってくれる男ばっかじゃねぇぞ」
昂大は四人の中でいつもまとめ役だった。
「はいはい、でたよー、昂大のお小言」
紗奈が口を尖らせて、ビールジョッキに口をつけるのを横目で見ながら、淳も昂大が出してくれたねぎまを頬張る。
「…で?淳はどうなの?彼氏とか」
「出来ないよ、そんなの毎日バイクで走り回ってるのに」
欲しいとも思って居ない事は言わなかった。
「もうそろそろ、本腰入れないと淳も」
昂大もよーと、ほろ酔いの紗奈が憎めない笑顔を浮かべる。
先程の小言への仕返しか。
「お前、もうソフトドリンクにしとけよ?」
「酔ってないよー、誠なんて電撃結婚でお婿に行ったんだよ?二人とも焦らないわけ?」
枝豆を無心に食べながら、淳はふと思った。
そう言えば、昂大に浮いた話は聞かないなと。
「昂大、彼女居たことあった?」
はぁ?と昂大が淳を見やる。
「何で俺が彼女が出来た報告をお前らにしなきゃいけないんだ」
「えっ!居るの??」
紗奈が前のめりになった。
恋バナとなれば食いつきが違う。
「居ないよ、半年前に別れた」
「何で?」
昂大が苦笑いを浮かべ、カウンター越しに伸ばした指で紗奈の額を弾いた。
「いでっ!」
「黙って食え、酔っ払い」
「酔ってないよ、まだ!」
昂大と紗奈は昔からこうだ、兄妹みたいに騒がしい。
どちらかと言えば寡黙な誠と淳は、そのやり取りを聞きながら、笑っていた。
酔っていないと散々ゴネて、もう二杯飲んだ紗奈は完璧に出来上がり、その喧嘩したらしい彼氏が迎えに来て、なんやかんやとくっついて帰って行った。
店が落ち着いているからと、昂大の父親に任せて自転車に跨った昂大が、店の前で淳を振り返った。
「ほら、乗れ」
「いいよ、近いし歩くから」
家まで、歩いて10分もかからない。
「一応女だろ?」
「一応って何よー」
何だかんだと昂大は優しい。
彼は小さい頃から変わらないから、男性として意識しないで済む数少ない貴重な存在だ。
淳が大人しく荷台に跨るのを待って、ゆっくりと昂大がペダルを漕ぐ。
「二人乗りって禁止だよねー」
「だな」
「お巡りさん来たら怒られるね」
「だな」
昂大は、紗奈の時ほど喋らない。
淳と二人、あの中では一番古い付き合いだからか別に会話が無くても間が持たないことも無く。
「明日はビール多めにいるかな?」
「ああ、結構出てたな今日」
明るいこの界隈の夜空に、あまり星は見えないけれど。
熱帯夜とまではいかない今夜は、お祭りの後のようで心地良かった。
「腰、気をつけろよ?」
紗奈まではいかないけれどほろ酔いを自覚している淳が陽気に笑う。
「大丈夫だよ」
「ほんとかよ」
「ほんとだよー」
恋はもっと先でいい。
仲間が居て、好きな仕事が出来ている。
淳の毎日は充実していた。
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