マスターの意外な特技

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淳は、少し値段の張るナッツを数種類取り寄せて、次の納品日に松山に手渡した。 「助かりました、本当に」 松山はほんの少しだけ困った目をして、微笑った。 その顔が、女たらしの印象とは少し違って。 淳は面食らった。 「あんな数分で、お礼なんてよかったのに」 でも、ありがとう。助かりますと受け取ってくれた。 静かで、落ち着いた声色と、淳のまわりには居ないなんとも言えない立ち振る舞い。 こりゃあ、惹き付けられてしまうんだろうなと思った。 あの、女性を侍らせている所を見ていなければどこか品のいい目を引き付けられるイケメンだった。 「じゃあ、ちょっと待って」 そこ、座ってと松山が丸テーブルのスツールを指した。 「いえ、こんな格好ですし…」 松山が伏せていたグラスを一つ手に取ったので、何か飲み物を出してくれようとしているのが分かって、淳は首を振った。 履き古したデニムで質の良さそうなスツールに腰を下ろすのは気が引けた。 「新しい、ソフトドリンクの試飲、してくれる?」 歳上だとは思っていたけれど、一体いくつなんだろう。 物腰が柔らかい。 せかせかしていないと言うか。 彼のまわりだけ、淳が普段過ごしている時間より時の流れが遅いみたいだ。 話し方がゆっくりだからだろうか。 口元は微笑む一歩手前みたいな、そんな感じで。 接客業って凄いなと思った。 仕方ないと、淳はなるべく浅くスツールに腰掛けた。 カウンターの内側の彼の手元は少し低くなっていて、何をしているか分からないけれど、手際よく何か作ってくれている。 「それから、腰の具合は…?」 この店を利用した事が無いから、夜彼がどんな服で働いて居るのかは知らない。 多分仕込み中の今とは違うだろう。 洗いざらしの柔らかそうなクリーム色のシャツは、淳のとそう変わらない形なのに、高そうに見えた。 「おかげさまで、毎晩ストレッチしたら翌朝が随分違うんですね?」 簡単なストレッチ法は、動画が沢山出回っていて。 ちょっとダイエットにもなったりするものだから、淳は楽しく続けられていた。 「重たい仕事だからね、気をつけていても、どうしても同じ所に負荷がかかるもんだよ」 君の場合は右側の背中、持ち方に癖があるんだろうねと、これまたゆったり指摘された。 不思議な雰囲気の男性だなと、思った。
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