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しばらくそうして、いつもの様に話しをしながらずっと、聞くか聞かないかの二択を考え続けていた。 答えを出す前に、松山が口を開いた。 「今日、淳が見たのが...俺が同じ家に居たくなかった父親なんだ」 ドキンと胸が震えて、松山が話そうと思ってくれた事を理解して。 「そうかな、って思ってました」 と、出来るだけ普通に返事を返した。 重く受け止めた雰囲気を出してしまったら、松山がまた悲しく笑う気がしたから。 「あの人にとって...俺は息子じゃない」 あまりにインパクトのある言葉で、淳は一瞬それが何を意味するのか理解出来ずに瞬いた。 「いや...勿論遺伝子を受け継いだって所は、あの人も認識してるだろうけど...よく、似てただろ」 「...イケメンでしたね」 「ふふ...」 淳の腰を抱いた手が、柔らかく淳を抱きしめ直して...松山は一度深くため息をついた。 「...俺は、あの人がする事を予測出来ないんだ、いつも」 酷く苦いものを飲み込もうとしているみたいに、松山の眉間に皺が寄った。 そして、同じ様に苦々しく呟く。 「だから...淳に、近づいて欲しくない」 それは、彼からこちらに近づいて欲しくない、淳から近づいて欲しくない、そのどちらも含まれているニュアンスで。 「...淳に、お袋が旧姓で仕事をしてるって話したでしょ」 「はい、昔に立ち上げたからって」 「うん、あれ半分本当で、半分嘘なんだ」 あの説明を受けたのはまだ松山とこうなる前だ。 嘘と言うより、深い説明を避けただけだろうと思う。 今はそれを、説明しようと心を開いてくれている。 その事のほうが、大きな事だった。 「お袋は、まだ親父に出会う前に会社を起こしてる。だけど...俺を妊娠して産んでからも親父の籍に入った事がない。...俺は、認知されただけだった」 どきん、どきんと嫌な鼓動が耳の奥に響いていた。 松山は、彼が家に居るのが嫌だと言った。 ずっと一緒に住んでいなかったとしても、あんなにピアノが上達するくらい、彼が家に居たと言う事で。 「俺は...親父の奥さんの...希望を叶える為に作られた子供だったんだ」 「......え?」 理解が難しいよね?と松山は笑った。 それは自分の存在自体を笑っている様な、酷く悲しい笑顔に見えた。
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