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平々凡々と、家族と仲間に囲まれて過ごしてきた淳には、到底理解できない言葉達。
松山はとても悲しい言葉を、スラスラと事実としてただ淡々と紡いでいく。
「親父がお袋と出会う前から付き合って居たのが、今の奥さんなんだ」
「...」
「お袋はそれを知らずに、知らされずに親父と付き合った」
酷い。
あの柔らかくて綺麗で、素敵な人を騙して付き合っていたなんて。
「親父は、子供を作る為だけにお袋と付き合ったんだ。……お袋が俺を身篭って、親父に真実を突きつけられた時は、もう俺をどうこう出来ない状態だった」
「どうして...」
何でそんな事をしたのか、悲痛な淳の顔を見て松山が大丈夫と言うふうに、ゆっくり背中を撫ぜる。
「奥さんがね、身体に疾患があって...子供を持つのが難しい人だったんだ、親父は整体師で店を持ってたし...跡取りを作れないから、結婚しないと今の奥さんに言われてたんだ」
だから、作った?
「そんな...」
「奥さんも、まさか親父がそこまでするなんて思って無かったのかもしれないけど…」
ふふ、と松山が自嘲的に笑う。
「子供が出来た事を知った奥さんは、お袋と籍を入れろと言って、親父はそれを拒んだ。奥さんは多分、親父を愛してたから結局、親父を拒み切れずにそのまま……体裁で建てた家で、お袋と俺と親父で生活してた」
奥さんの家と行ったり来たり、ふざけてるよな。
松山はそう言って、深く息を吐いた。
「……でも、もっとキツかったのは...お袋が親父を愛してた事だ」
そんな事があるのだろうか。
それが、淳が感じた正直な疑問だった。
自分は二番目で、利用されたと知っても。
愛せるのだろうか。
「親父も、一時期おかしかったよ...あれでも、多少はお袋に気持ちがあったのかもな。...お袋は良く海外に出るから、俺はその時だけ、家政婦さんに見て貰ってた」
その時を思い出しているのか、一気に松山の纏う雰囲気が重くなった。
「毎回違うその臨時の家政婦に、親父は毎回手を出すんだ、親父と、お袋の寝室で」
もう返事すら、相槌すら打てずに...淳は息を詰めていた。
「その家政婦の雰囲気が変わる、親父の女になった気になって、帰ってきたお袋に匂わせる。……多分それだけの為に、親父は家政婦を抱いてた」
俺はその流れを最初から最後まで、いつも見てた。
松山は辛かったとは、言わなかった。
でもその代わりに、淳の手を取った。
「だから、あの人とは関わって欲しくないんだ」
懇願。
そんな悲痛な目の色が、淳を見つめた。
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