unnecessary

4/12
前へ
/113ページ
次へ
「……送っていくよ」 ご飯も食べすに、淳は松山から離れられずにいた。 「……」 「明日も早いでしょう?」 頷き返すけれど、このままこの夜を独りで過ごして欲しくない。 きゅ、と抱きついて松山の胸に頬をつける。 離れたくない。 「……淳」 とても大切そうに抱いてくれる腕は、誰かを護る為に使う前に、自分を癒さないといけないのに。 「柊司さん」 「ん、何?」 綺麗で、器用で、優しい人。 「……お父さんは、何をしに来たんですか?」 「……」 「柊司さんに、何を言いに来たんですか」 松山は微笑んだまま、淳を見つめるだけで。 何も答えない。 「……柊司さん」 松山は目を閉じた。 微笑みの手前の唇が動いた。 「……整体師の店、あの人の子供が継ぎたくないんだって。ゲームクリエイターになるそうだよ?...成人祝いのワインを、頼まれた」 綺麗な松山の手が、その顔を覆った。 「……あの頃、死にものぐるいで技術を身につけても、目にも入れて貰えなかったんだ。...お前に、やろうかって……簡単に...要らなくなったから、くれるんだってさ」 初めてだった。 誰かを心から傷つけたいと思ったのは。 今どこにいるかも分からない松山の父親を見つけ出して、ズタズタに切り裂いてやりたいと思った。 「……断ったんですよ、ね?」 松山は頷いた。 「ちゃんと、言いましたか?要らないって!」 震えるほどの怒りに、大きな声を出した。 松山が顔を上げ、目を見開く。 「言いましたか!ふざけるなって!」 「……いや...」 「どうして!言ってやれば良かったんです!あなたの要らないものは、俺も要らないって!」 怒りに震える手で、ぎゅ、っと松山の手を握りしめた。 「もう、子供じゃないって!道具じゃないって!...柊司さんには私が居るって!ちゃんと言って!」 「柊司さんはっ、私の、私にはっ!」 は、と息を継いで。 叫びだしたい胸の内を吐き出した。 「私はっ、柊司さんだけが必要です!」 普段穏やかな淳の激昂を受け止めていた松山の、瞳が揺れた。 「……もう、貴方は要らないって。柊司さんには必要無いって言って。...私が居るから」 松山が、初めての強さで淳を引き寄せた。 少し痛いくらいの力で腕の中に閉じ込められた。 何も言わない松山の腕の中で、これまでの事が一つ一つ繋がっていった。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2652人が本棚に入れています
本棚に追加