マスターの意外な特技

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それから、ちょこちょこと松山と会話をする様になった。 「今日は稼ぎ時ですねぇ」 「どうかな、夏祭りでいい雰囲気になる様な年齢層は…来ないかもね」 今夜はこの近くの少し大きな神社でお祭りがある。 アーケードに出店が出て、毎年賑わうのだ。 「時任さんこそ、忙しいんじゃないの」 松山は、話せばちゃんと普通に返事が返ってくる男だった。 「ウチは毎年の事ですから、運べる所には何日か前からちょっとずつ…」 「そう」 「では、また」 「はい、ご苦労さま」 もう、BARへの配達は苦じゃなくなっていた。 子供の頃は昂大と毎年行っていた祭りも、お互いが働き出してからは行っていない。 アーケードから離れているので、店頭で焼き鳥を販売したりはしないけれど、昂大の店はやはり稼ぎ時なのだ。 淳は風呂を終え、自室で寛いでいた。 万が一追加の注文があってはいけないと、一応出られる服装で。 ピコンと通知が鳴った。 『出られるか』 普段使うグループLI*Eではなく、昂大個人からのメッセージだった。 文字を打つのは面倒くさいと、淳は通話をタップした。 『おお、出られる?』 「うん、祭りもそろそろ終わるから大丈夫だけど?」 『ウチも落ち着いたから、飲みに行こうぜ』 昂大と二人で飲むなんていつぶりだろうか。 幸い明日は朝イチの配達は無い。 日曜日だ。 淳は一応、シンプルなワンピースに着替えてから家を出た。 お酒を飲むつもりの昂大は、家から出た一つ目の角に立っていた。 「お待たせ」 「いや、どこいく?」 スナックはいくつもある。 その中のどれかと考えた淳だったけれど。 「ウチの横のBARにするか?」 「え?BAR?」 昂大がまさかそんなしっとりとした店を選ぶとは思っていなかった。 「やだ?」 「ううん、でも珍しいね」 「おっちゃんおばちゃんに、ちゃちゃ入れられながら飲む気分じゃないんだよ」 確かに、顔見知りの近所の店だ。 どうやら皆、淳と昂大が付き合っているのだと勘違いをしていて。 更に違うと否定しても聞きやしないのだ。 「はは、そうだねー」 昂大の歩幅は広い。 淳に合わせてゆっくり歩いてくれるので、のんびりとBARに向かう。 「お腹空いてないの?」 「あー、賄い食った、淳は?」 「うん、私も夕飯食べたよ」 じゃあツマミ程度でいいねと、BARの扉を開いた。 松山の言った通り、店内は丸テーブルの席に二組だけでカウンター席は空いていた。 「いらっしゃいませ」 松山は、糊の効いた白いシャツに黒いベストでいかにもバーテンという出で立ちだった。 「こんばんは」 挨拶をした淳と会釈で済ませた昂大が並んでカウンターに座る。 「淳、何飲む?」 「うーん、私いつもビールだからな」 うん、と昂大がメニューを捲る。 「昂大は?」 「あー、そうだな」 二人でメニューを除きこんで、ちょっと迷う。 その間に、松山は小さな皿にナッツを入れて出してくれた。
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