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「菜摘さんは、長い片思いをしていたんですお父様に」
一人っ子だった、身体の弱い菜摘から自分の不注意で両親を奪った。
その罪の意識は和史からも全てを奪った。
傍にいて欲しいと言われればそうした。
一人が寂しいと言われれば、泊まり。
その要求が度を越しても、受け入れた。
その苦しみを知っていた紗英子は、ただじっと耐えたけれど。
大学を卒業すると、和史は紗英子に別れを切り出したと言う。
菜摘がそれを望んだからだ。
『……何をされるか、わからない』
和史はそう言ったと言う。
「……菜摘さんの執着は徐々に常軌を逸して行ったそうです」
元々、和史を想っていた菜摘にとって、またとない機会だった。
もっと強くと彼を繋ぎ止めようとした。
その頃紗英子は小さな店を持ち、和史も親から引き継いだ整体院を経営する。
紗英子が店を大きくするより、その頃まだ主流でなかったネット販売に力を入れ海外に出たのは、そんな和史を見ていたく無かったからだと悲しげに笑っていた。
「紗英子さんは、別れを受け入れませんでした。それでも和史さんと繋がっていたかった」
松山の表情が、驚きから苦しみに陰っていくのを胸を締め付けられながら見ていた。
でも、ここで止められない。
本当に知ってもらいたいのは、ここからだから。
「子供を作ることがその時点で難しかった菜摘さんは、跡取りが出来ないことを気に病みました。結婚をやんわりと避ける和史さんの理由をそこだと考えたんです」
どこか、他で子供を作ってくれ、それが出来たら結婚したいと…正常では無い目で言われた和史は悩んだ。
本当に紗英子と別れているのか、それを確かめたかったのだろう。
和史がほかの女性と子供を作ったのなら、別れを信じられると言う、菜摘の気持ちも込められていた。
子供を作らなければ、このままでいられる。
今にも暴走しそうな菜摘を抑えていられると。
和史が女性として愛しているのは紗英子だけで、紗英子意外と子供を作る事など考えられない。
それなのに、どこの誰とでもいいから子供が欲しいと言う菜摘が恐ろしかった。
そこから二年、和史は紗英子を離せず、紗英子もまた和史から離れなかった。
月に一、二度。
数時間の逢瀬で和史は息を吸い。
紗英子は和史を癒した。
菜摘が寄越す数々の女性には金を握らせて、行為があったと報告させながら、和史は日々をやり過ごしたのだ。
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