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ゴミの日は、溜め込んだ醜態を全部持ち去ってくれる素晴らしい日だ。
両手を上げて大きく伸びをする私の斜め下から、じいっと音がしそうな視線を感じた。
「ゴミの日だからって死ぬなよ」
「やばいじゃん、それ。週二で死んでるよ」
「俺も行くわ」
立ち上がった山下くんに嬉しくなり、私はスウェットの上にダウンコートを羽織って、パソコンの画面を煌々と付けたまま玄関を出た。
マンションのエントランスをぬけると、キンと冷えた空気が顔に刺さる。たとえ排気ガスに汚れていても、冷たいだけで空気は澄んでいるかのように鼻の奥を通り抜ける。めいっぱい吸い込むと、むかむかしていた胸やけは冷たくさらわれていった。
さっき仕事帰りに立ち寄ったのとはまた別の、少し遠いコンビニまで足を伸ばす。暗く雑多な背景に白い息を吐きながら見上げると、電線のむこうに星空が輝いていた。
「きれい。私、星には詳しくないけど、あの星が八光年っていうのだけは知ってるんだ」
夜空から落ちそうな場所にある、ひときわ強く光っている星を指差した。
「へえ。八光年ってことは、八年前の光だよな」
「うん。八年前の、過去の光を見てるんだって。遠いねえ」
私のしゃべった息は白く空へ向かって溶けていく。
「十年って、あの星よりももっと遠くにあるんだね」
そうだな、と隣で答えた山下くんの透き通った声も、一緒に夜空へ溶けていった。
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