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ひでぇなあ。ローテーブルに開いたノートパソコンを横から覗き込んでいた山下くんが、そう呟いてため息をついた。
「なにが?」
私がその一瞬山下くんのほうによそ見をしたせいで、プラスプーンが、カラメルの上ギリギリまで薄くこそげてた茶色いカスタードの膜を破ってしまった。
割れ目からとろりとこげ茶色が流れ出る。なんだか血みたい、と思った。
「この話。主人公がぜんぜん聞く耳持たないじゃん」
「そんな物語を書きたいの」
パソコンの画面に縦書きで打ち込まれた文字を追う、山下くんの綺麗なまつげが横にある。
ふうん、と不満そうなこの人は今の私よりも十も年下なので、その肌ツヤやシュッとした感じが眩しいほどだ。
それがすごく、私に流れた時間を感じさせる。
プリンを空にしたら、プラスチックのデザートカップのゴミが三つ積み上がった。糖分が体の表面とか脳みそとかを膨張させてるような心地がして、ほんの少し、胸やけしてるけど。
「コンビニ行こう」
そう言って立ち上がった私に、山下くんは驚きの声をあげた。
「ええっ、今から? なんでまた」
「明日はゴミの日だから」
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