1/3
前へ
/12ページ
次へ

 オーディンは、お父さんが帰って来た気配で目が覚めたのだと言う。そのまま浅い眠りの中で、窓が風に揺れる音を聞いていた。しばらくして寝付けず目をあけると、真っ暗な部屋にぼんやりと窓が浮かんでいた。そしてカーテン越しに、ゆらりと影が見えた。窓の端からヌーと現れたそれは、手招きするように揺れる節くれた魔女の手だったと言う。オーディンは布団をかぶり、ただひたすらに祈り続けて気付けば眠りに落ちていた。 「寝ぼけてたんじゃなくて?」  僕は初歩的な質問をした。 「当たり前だろ! それ一回で人に言ったりするかよ。何度も来たから厚いカーテンに取り換えたんだ。そしたら……。とうとう天井を這って、手が部屋に入ってきたんだ。父さんが部屋にいてくれた時は入って来なかった。誰も信じてくれない。俺はいつか攫われるんだ」  結局、寝ぼけているか夢をみているんだろうと思われて終わってしまったらしかった。  話を聞き終わったステラは何も言わずに立ち上がると窓に向かい、カーテンの裏表を確認した。そして窓を開けると、身を乗り出して外の壁を覗いた。 「大丈夫?」  動きを止めて桜の樹を見下ろすステラの横にいった僕は、手が届きそうな桜の枝を見て声をかけた。 「うん。花が無ければ大丈夫」 「何のことだ?」  ステラの言葉に後ろにいたオーディンが不思議がった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加