言葉。

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「だから別れて欲しいって言ったのね」  私は彼に向かってそう話す。  いきなり別れようだなんて、おかしいと思った。頑なに理由を言わない彼には何か隠さなければならないことがある、と。  お互いに大きな不満もなく、意見が食い違っても冷静に解決策を探す。恋人としてこれ以上無いほどの関係だったと今でも思っていた。  言葉だけではなく、行動全てで愛を感じ、私もそれに愛で応える。そんな関係。  そんな彼からの別れ話だ。何かあるに違いない。けれど、そんな彼からの別れ話だからこそ、私は問い詰めるようなことはせず受け入れたのだった。  愛する彼を苦しめるようなことはしたくない。悲しさを飲み込み、別れた。  それが最後の言葉だった。 「どうして本当のことを言ってくれなかったのよ」  私は心の奥にしまい込んだ悲しみが溢れかえったように涙を流しながら、彼の眠る墓石に手を合わせる。
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