第四章・私の星

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「っ、ゼロス……?」  周囲を見回して息を飲む。  そこに立っていたのは泣いているゼロスだけでした。  周囲一帯は瓦礫に埋もれ、乱戦になるほどたくさんいた怪物は消滅していました。それだけではありません、怪物と戦っていた女官や侍女、コレットやエミリアまで倒れています。 「うええぇぇんっ、ごめんなさい、ごめんなさい~!! ブレイラ~!!」  ゼロスが泣きながら駆け寄ってきました。  私の足にぎゅっと抱きつくゼロスを宥めて、倒れているコレットに駆け寄ります。 「コレット、コレット、大丈夫ですか?! しっかりしてください!」  呼びかけるとコレットが酷く疲弊した顔で私を見ました。  立ち上がることもままならないほどの疲弊です。 「ぅ、……ご心配をおかけして、申し訳ありません……。魔力を、使い過ぎました……」 「いいえ、守ってくれてありがとうございます。皆は大丈夫ですか?」 「ご安心を……。皆、魔力を使い切った、だけですから……」  さすが冥王様です、とコレットが小さく笑う。  そう、これはゼロスの力でした。  ゼロスの魔力が暴発し、それは怪物だけでなく周囲一帯を消滅させました。皆は咄嗟に最大魔力を発動して防壁魔法を張ったのです。しかもコレットとエミリアは私の防壁魔法も同時に張ってくれました。  コレットの咄嗟の判断がなければ私は死んでいたことでしょう。 「ぅっ、ひっく……ごめんな、さい、……ごめんなさいっ……、うええぇぇん!!」  ゼロスが女官たちから隠れるように私に抱きついて泣いています。  自分が強大な力を制御できなかった所為だと分かっているのです。 「ゼロス……」  私はなんの言葉も掛けられなくて、泣いているゼロスの肩にそっと手を置きました。  こうしている間にも新たな怪物の気配を感じます。今は皆を守らなければなりません。 「ゼロス、今は泣いてはいけません」 「うぅ、でも……」 「今は皆を守る時です。皆を一カ所に集めるんです」  私は泣いているゼロスを置いて、疲弊して動けない侍女たちに手を貸しました。  いつ怪物に襲われてもおかしくありません。皆を一カ所に集めて少しでも安全を確保します。  女官や侍女たちを一カ所に集めていると、それを見ていたゼロスが涙を拭って「……ぼ、ぼくもする……」と手伝ってくれました。  ゼロスは女官や侍女の顔を覗き込んで「……だいじょうぶ?」と泣きそうな顔で聞いています。  こうして女官や侍女たちを集めていると、アベルとエルマリスが私たちを見つけてくれました。 「ブレイラ、そこにいたのか!」 「ブレイラ様! ご無事ですか?!」  兵士を引きつれた二人が駆けつけてくれます。  アベルは瓦礫に埋もれた周囲と、疲弊した女官や侍女の姿に顔を顰めました。 「いったい何があった。……って、冥王か」  アベルがゼロスを見ました。  アベルは責めている訳ではないのですが、ゼロスの肩がびくりっと跳ねて私の後ろに隠れてしまいます。 「うぅ、……ごめんな、さい……」 「ゼロス……」 「ブレイラっ……」  ぎゅっと抱きつかれて、小さな手に私の手を重ねました。  ゼロスの手を握りながらアベルとエルマリスに向き直ります。
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