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「ブレイラは、お前にも同じようなことを言ったのか」
「……まあな」
「そうか、ブレイラらしい」
ハウストが喉奥で笑う。
その笑い方にイスラは目を据わらせる。
低く笑う姿は皮肉っぽさと妙な色気を感じさせるもので、四界中の女性を虜にするものだ。本来なら赤ん坊を抱っこしている時点でどんなにかっこつけても台無しのはずなのに魅力があるのはハウストから余裕を感じるからだろうか。まだイスラには身についていない大人の余裕というやつだ。
今、イスラの外見年齢は少年と青年の狭間で、あと少しでブレイラが初めて出会った頃のハウストに追いつくはずである。あと少しで背丈も外見の年齢もイスラが幼い頃に見ていたハウストだ。
イスラは早く大きくなりたかった。
早く成長して大人になってブレイラを守りたかった。ハウストのように大きくなればそれが出来ると思ったからだ。
しかしイスラがハウストに追いついたと思っても当然ながらハウストは更に先をいく。しかも面白くないことに、ブレイラは変化していくハウストにますます夢中だ。それは埋め難い経験値の差だが……。
…………面白くない。
なんとなくイスラの機嫌が下降して、ハウストから顔を背けてブレイラ達に視線を戻す。
だがそれがいけなかった。
ハウストは今のイスラの反応を見てなんとも複雑な顔になった。眉間に皺を刻んで困惑しながらもイスラに話しかける。
「……イスラ、まさかお前までっ。……ブレイラに言ってやろうか、『イスラが一番可愛いぞ』とか『イスラが人間界で褒められていたぞ』とか……」
「っ!!」
くわッと目を見開いてイスラがハウストを見た。
どうやらハウストはイスラも嫉妬しているのではと思ったようだ。
互いに驚愕の形相で顔を見合わせる。
慣れない気遣いをしたハウストと、本気かと動揺するイスラ。
二人の間に沈黙が落ちて、「うー」とクロードの低いうなり声だけが響いたのだった。
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