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「精霊界からイスラに見舞いだ」
「そうでしたか」
ハウストは部屋に入ってくるとイスラの元へ足を進めます。
そしてベッドにいるイスラの全身を確かめるように見回しました。
「体の調子はどうだ」
「悪くない」
「そうか。お前が無事で良かった」
「……ああ。その、……ありがとう。腕……」
腕の切断部は特殊な状態で、治癒にはハウストの力が必要でした。
イスラは自分の体がどういう状態か、どんな力によって一命を取りとめたか分かっているのです。
「しばらく安静にしていろ」
「……分かってる」
イスラは無愛想なまま頷きました。
なんだか居心地悪そうな、ぶっきら棒な反応です。きっと照れ臭いのでしょうね。でもハウストに対していつもの調子を戻しつつあって少しだけ安心しました。
そんな二人の姿はいつまでも見ていたくなるものですが、ここにはフェルベオとジェノキスも来てくれています。
「精霊王様、お久しぶりです」
私は立ち上がり、畏まってお辞儀しました。
魔王や勇者や冥王は精霊王と同格ですが、私はあくまで魔王の妃で勇者と冥王の親というだけです。
足元ではゼロスが「あっ、またしらないひと!」とフェルベオを指差して大騒ぎしています。知らない大人ばかりでびっくりしているのですね。
でもフェルベオは気にした様子もなく笑ってくれました。
「母君、楽にしてくれ。僕も母君に会えて嬉しいんだ」
そう言ってフェルベオが私の手を取ってくれます。
取られた手を見つめて、そのまま視線をあげていく。そう、フェルベオは見上げるほどに大きくなりました。
フェルベオの氷のように繊細な美貌と、腰まで伸びた絹のような白銀の髪。なんだかすごいです、純白に輝く美青年です。物語から飛び出してきたキラキラの王様のようです。
ほんの二年ほど前まで凛とした美少女のようでしたが、今では背丈もハウストと並ぶほどに高くなっていました。威風堂々とした威厳も纏ってすっかり大人の男性ですね。
「あっという間に大きくなりましたね。あなた方が急成長するのはイスラで見慣れていたつもりですが、なんだか不思議です」
「僕の成長は精霊界と時代の求めです。僕も勇者殿や冥王殿と同じく子どもの時分に戴冠しましたから。母君は以前と変わらず美しい、お会いできて眼福だ」
そう言って手の甲に唇を寄せられました。
こうして挨拶を終えたものの、私の足にぎゅっと抱きついたゼロスは「だから、だれなの?!」と相変わらず警戒心丸出しです。
特にフェルベオに対しては興味と怯えと羨望と、複雑な反応をしています。
「こ、このひとだれ?! どこのひと?! ちちうえとあにうえと、おんなじかんじする!」
どうやらハウストやイスラと同じような特別な力を感じるようです。
やはりゼロスも四界の王なのですね。まだ無邪気な子どもですが、こういう時にゼロスが王だということを思い知らされます。
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