第一章・次代の王

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 翌朝。  窓のカーテンを朝陽が照らす。  カーテンの隙間から光が差して、眩しさに重い瞼を開けました。 「ん……」  ……まだ少し眠いです。  結局、昨夜私が眠ったのは夜明けに近い時間でした。  あれから悶々と悩んでしまって寝付けなかったのです。  まだ眠いけれど、今日は四大公爵会議と四大公爵夫人会議の日です。いつまでもベッドの住人でいる訳にはいきません。  私はハウストの腕の中で身じろぐ。  するとハウストも眠そうにしながらも薄っすらと目を開けました。 「ハウスト、おはようございます」 「……ん、おはよう」  寝起きの掠れた声。  耳元で響くそれは甘くて、それだけで私の胸が高鳴ってしまう。  昨夜の不安が消えたわけではありませんが彼が私を愛してくれていると感じられるのです。 「ハウスト、そろそろ起きましょう。今日は会議ですよ」 「そうだな……」 「わっ、ハウスト!」  言葉とは裏腹にハウストが私を抱きしめる腕を強くする。  私を抱きしめたままハウストは目を閉じてしまいます。  まだ眠るつもりでしょうか。そろそろ起きて準備をしなければならないというのに。 「ハウスト、だめです。起きてください」 「もう少しこのままでいさせてくれ」  眠そうに言ってハウストがますます腕に力を込めてしまう。  それは私にとっても甘い誘惑ですが、このままでは準備が遅れてしまいます。 「いい加減にしてください。もうだ、……」  だめです。そう言おうとして、言葉が詰まる。  昨夜も私はハウストに『だめ』と言ったのです。  不安が蘇って躊躇してしまう。  ハウストの腕の中で何も出来ずに躊躇っていると。  ドンドンドン!! 「おはよー! ブレイラ、ちちうえ、おはよー!」 「わあっ、ゼロス?!」  寝所の扉が激しく叩かれました。  ゼロスです。起床したゼロスが私たちの所に来てしまいました。  今にも扉を開けられてしまいそうで、さすがにこのまま悠長にいられません。 「ハウスト、ゼロスが来ました。早く起きてください」 「……あいつめ」  ハウストが低く呻るように言いましたが、無邪気なゼロスに悪気はありません。  そうしている間にも寝所の扉がドンドンと叩かれて、世話役のマアヤとゼロスの会話が聞こえてくる。「ゼロス様、魔王様と王妃様は御支度中です。別の部屋で待ちましょう」「やだ! ちちうえとブレイラにおはようってするの!」聞こえてくる二人のやり取りに、この扉が時間の問題で突破される予感しかしません。  私はハウストの腕の中から抜け出すと急いで身支度を整えて寝所のカーテンと窓を開けました。  寝所の空気が夜から朝に入れ替わって、ゼロスを迎える準備を手早く整えます。 「ゼロス、待ってください! 今開けますから!」 「はやく~! ブレイラ、はやく~!」 「はいはい、分かっていますから!」  ハウストはまだベッドに潜っていますが、これ以上ゼロスを待たせることは出来ません。  寝所の扉を開けると小さな体が飛び込んできて私の足に抱きつきました。
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