第一章・次代の王

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 魔王の城にある北離宮。  北離宮は王妃を頂点にした組織が支配する場所です。  そこは王妃が日々の生活や政務を行なう離宮ですが、同時に魔王が世継ぎを作る為に魔王に愛されることを許された多くの美しい令嬢や女官が暮らす離宮でもありました。  魔王以外の男性の立ち入りを禁じられたここは表向きは華やかで豪華絢爛な場所でしたが、水面下では寵愛を巡って諍いや政争までも頻発しています。  でも、これでも二年前に比べると随分穏やかな場所になりました。私が初めて北離宮に入ったのは二年前、ハウストに遠ざけられて本殿から北離宮へ生活の場を移された時です。人間の貧民出でなんの後ろ盾もない私にとって、その時の北離宮での生活は孤独と嫉妬ばかりの辛いものでした。  しかし魔界の王妃として魔族に受け入れられると、北離宮の主人として立場が落ち着いたものになったのです。  一時は私が辛い思いをするならとハウストは北離宮の閉鎖を考えてくれましたが、それは気持ちだけ受け取ってお断りしました。たしかに北離宮は私にとって面白くない場所です。でもここは王妃の離宮、王妃が政務を行なう場所なのです。私がハウストに相応しい王妃である為に、この難解な北離宮を自分の手で制圧……、間違えました、掌握……。……これもなんだか不穏ですね、とにかく取り仕切ることも大事なことなのです。  そして今、北離宮の大広間では四大公職夫人会議が開かれていました。  王妃である私主催のそれに、東西南北を統治する四大公爵夫人が招集されます。半年に一度、四大公爵会議と併せて二日間開催される会議でした。 「では皆様、上半期の予算案の枠組みは以上のように決定してよろしいでしょうか」  北の大公爵夫人ダニエラの理知的な声が響く。  その声に、東の大公爵夫人エノ、西の大公爵夫人メルディナ、南の大公爵夫人フェリシア、他にも出席していた上級貴族の夫人や高位の女官たちが了承の返事をする。  異を唱える者がいないことを確認すると、ダニエラが私を振り向きました。 「王妃様、いかがですか?」 「私も異存はありません」 「畏まりました。ではそれぞれ担当士官に通達し、この決定事項で進めてまいりましょう。以上をもって一日目の四大公爵夫人会議を終了いたします。王妃様、よろしいでしょうか」 「はい。皆さん、お疲れ様でした」  私のこの言葉で一日目の会議が閉会します。  すると今まで大広間に満ちていた緊張感がふっと緩みました。  会議は朝から開催し、昼食を挟んで半日にも及びます。くたびれてしまいましたね、厳粛な会議が終われば憩いの時間です。 「ブレイラ様、サロンにお茶会の準備が整っております」 「ありがとうございます。皆さん、サロンに移りましょうか。会議の疲れを癒してください」  私がそう言って立ち上がると、大広間にいた者達も起立してお辞儀します。  それに頷き、側近女官コレットの先導で北離宮にあるサロンへ向かいました。  北離宮の長い回廊を私を先頭にして、四大公爵夫人、上級貴族、高位の女官、その後にもたくさんの女官や侍女が続きます。それはまるでちょっとした隊列のよう。  多くを従えて歩くというのはなかなか気疲れするものです。最近はこういうものだと思えるようになりましたが、王妃になったばかりの頃は慣れずにいました。  私は回廊を歩きながら、背後に控えるようにして歩いているダニエラをちらりと見る。
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