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「恐い顔をしていますね。……まだ怒っていますか?」
「怒っているつもりはありません」
ダニエラは毅然と前を向いたまま答えました。
嘘です。怒っています。
でも怒らせた原因は私。その理由は今から向かうお茶会にありました。
四大公爵夫人会議後のお茶会は以前からも定例行事だったようで、なにも今に始まったことではありません。しかし、そのお茶会に参加できるのは王妃、四大公爵夫人、上級貴族、その取り巻きの貴族だけという限られたものでした。
四大公爵会議期間中は魔界の各地から多くの貴族夫妻が王都に集うというのに、身分の低い貴族は王都を訪問しても遠目に魔王と妃の姿を眺めるだけだったのです。
当主は身分が低くても四大公爵会議の傍聴席で会議に参加しますが、夫人の方は王都を訪れるだけという事も珍しくありませんでした。
私は、それがとても勿体ないことのように思えました。
会議開催期間は王都から遠く離れた僻地からも多くの貴族が集まります。普段会うことが叶わない方々が王都を訪れるというのに、一言の言葉も交わさず、遠目に眺められるだけで終わるのはあまりにも……。ならばせめて夫人会議後のお茶会に招待したいと思い、それを実行したのです。
というわけで、前回の会議から北離宮のお茶会には多くの貴族の夫人や令嬢が訪れていました。
しかし反対が無かった訳ではありません。身分に関わらずすべての貴族の婦女子に門戸を開くことは、上級貴族の選民意識を挫くものだったのですから。
説得に時間はかかりましたが私の意志を強行に貫かせてもらいました。上級貴族の選民意識を消すことは難しいことですが、最初の一歩を踏みださなければ何も始まらないのです。
でも……、ちらりとダニエラを見て、目が合ってそっと逸らす。
やっぱり怒っています。
そう、ダニエラも反対した側の一人でした。といってもダニエラが反対したのは選民意識などではありません。
ダニエラは秩序の乱れを心配しているのです。本来、身分の低い貴族が王妃に直接言葉をかけるなど言語道断なことでした。
「あなたが心配している事も分かります。でも四大公爵会議は半年に一度の会議です。半年に一度くらい、こういう機会があっても良いと思ったんです……」
「王妃様のお決めになったことに不服を申し上げるつもりはありません」
「……それなら、良いのですが」
恐い顔のまま言われても、……恐いだけですよ。
私とダニエラの間になんとも言えない空気が漂いましたが、その間にエノの穏やかな声が割って入る。
「まあまあ、ダニエラ様のお気持ちも分かりますが、王妃様もお考えがあっての事なのですから」
仲裁してくれたエノは四大公爵夫人の中でダニエラの次に年長の女性です。いつも優しい微笑を湛えた楚々とした女性でした。
そんなエノに続いてメルディナが呆れたような顔をします。
「ダニエラ、言っても無駄ですわよ。自覚しろと言って大人しく自覚するような人間なら、今頃ここにはいませんわ」
「どういう意味ですか」
私の声が低くなる。
メルディナはやはり小生意気です。
メルディナはフフンと鼻で笑うと、同列に並んでいるフェリシアに同意を求めます。
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